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第50話 商社はチャラ男製造所。

「7年のお付き合いをして結婚したと聞いてますが、服部室長は商社マンです。商社はチャラ男製造所ですよ。無垢で真面目な男ほど染まりやすいです」

「実際、働いていた真希さんから聞くと信憑性あるわね」


 商社は基本、男尊女卑だ。男共は自分の歳を棚にあげて、アラサーでもおばさん呼ばわり。実際、合コンにでも行けば商社マンはモテモテ。高収入のイメージがあるからだ。

実際、院卒なら2年目から年収600万円、30歳前に年収一千万円に達する。年収が上がるのが早いので急に生活が派手になる人間多数。

浮気、不倫に関しては他の業界より緩い。何も作り出さないのに、横に流すだけで利益を得る業態。当然、話の上手い人間が集まる。

商社マンは事務職との社内結婚が多いが、そういった様子も見てる為に浮気しても自分に戻ってくれば良いという感覚で結婚している女ばかり。


 いわゆる学生時代から付き合っていた自分より優秀な彼女と結婚した服部室長はかなりのレアケース。


 そして服部室長は非常に優秀な方なので、アラフィフでもモテる。仕事ができる男というのは職場において非常に魅力的だ。バブル期に大量採用された先輩を抜いて室長に就任した彼。

 仕事のできる人に仕事が集まる職場だが、服部室長は非常に要領の良い方で大量の業務を上から振られてもこなしてしまう。部下を自宅に招待したり、海外出張の際にはブランド物の口紅や、スカーフなどを事務職に配る太っ腹プリ。上からも好かれ、部下からも慕われる稀有な方で、不倫メールをグループメールに流す失態をしても笑って済まされる。そもそも、なぜか彼が女性関係で噂になっても、不倫とは見做されていない。後腐れないような相手を選んでいるのが明白。不倫や浮気に極度の嫌悪感を持つ私でさえ、服部室長を慕っていたのだから、彼かなりの人たらしだ。



「実はね。マリアさんから聞いたかもしれないけれど、夫が不倫相手とやり取りしているメッセージを見ちゃって。来栖真実さん。派遣をしている方みたいなんだけど、彼女と別れさせて欲しいの」

「来栖真美さんは、派遣期間が終われば別れると思います。服部室長はそういった付き合いをしています。」

 服部室長は「妻とは離婚する」などと、不倫男の定型文を言いながら不倫を繰り返していない。

彼は愛妻家を謳いながら不倫している極めて稀な男だが、そういった男と関係を持つことに優越感を持つ女が一定数いる。


「他にも不倫相手がいそうな言い方ね」

 急に百合子さんの声が鋭くなる。私は彼女が只者ではないことを一瞬忘れて失言をしてしまった。

「⋯⋯すみません。私が服部室長とご一緒に働いている時は別の方と関係がありました。おそらくワンナイトに近い関係で、お互い気持ちはないかと思います。愛妻家として有名ですし、会社のパソコンのスクリーンセーバーは奥様との旅行写真です」


「浮気するような男が愛妻家な訳ないでしょ。来栖真美さん、20歳前半くらいのお嬢さんだったわ。子供がいたら自分の娘でもおかしくないような女と関係するなんて気持ち悪い」

 メッセージで写真のやり取りをしていたのだろうか。スマホでやりとりして、奥さんに確認されてしまうなんて随分迂闊だ。


「本当ですね。おっしゃられる通りです」

百合子さんの言う通りだ。私が服部室長に嫌悪感を持たなかったのは、なぜだか思い返してみる。彼には初めての接待の時に取引先から下着の色というとんでもないセクハラ質問をされた時にそれとなく助けてもらった。そして、その後も彼は接待の場で、私をセクハラ親父の隣の席に座らせなかった。原裕司と婚約したという話をした時の驚いた様子から察するに、彼には私が男性に苦手意識があることがバレていた。

(気に掛けてもらったから、クズなのにクズ男扱いしなかったってことか⋯⋯つくづく私って寂しい女)


「離婚するつもりはないと、マリアさんからは聞いたのですが気持ち悪いと思っている相手と今後も暮らしていけますか?」

「最初、彼の不倫に気づいて頭が真っ白になった。私は不妊だっていう引け目もあったし、生物として子の産める女にいくのは当然だと自分を慰めたわ。別れさせて今の生活を守らなきゃと思って『別れさせ屋』にも駆け込んだ。暮らしていけるかと言われれば、耐えられると思う」


 私は百合子さんが不妊だという話は初めて聞いた。服部社長は自分の家は子を持たないで夫婦の生活を楽しむ主義だと言っていた。もしかしたら、駐在から帰ってきて百合子さんが仕事に復帰しなかったのは不妊治療の影響があるのかもしれない。シゴデキで女遊びはするけれど、奥さんが一番大事という服部倫也のイメージが崩れてくる。



「百合子さん、他に浮気相手がいるか調べてみましょうか」

荷物からパソコンを出す私を百合子さんは不思議そうに見つめていた。

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