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第97話 なんで原裕司が復活してるんだよ。(聡視点)

 銀座で俺の親と顔を合わせをしていた真希。

母が彼女を連れ出したのは、女同士の話があるのかと思っていた。

その夜、真希は部屋に戻ってこなかった。


心配で、連絡するも真希には通じない。

母に電話で尋ねても、夜パフェを食べて普通に真希と別れたと言う。

「どこに行くとか何か言ってなかった? 事件に巻き込まれたかもしれないし、警察に連絡⋯⋯」


母は俺が言い終わらない間に、なぜか溜息をついた。


「山田真希さんウチとは家柄も違うのを感じて、結婚なんて重荷に感じて逃げたんじゃないかしら? 警察に届け出なんかしたら彼女が迷惑よ」

「逃げる?」

「聡が彼女の事を好きなのは分かったけれど、彼女が貴方を好きなようには見えなかった。追わないであげた方が彼女の為だわ」

母の言葉はナイフのように俺の心臓を切り裂いた。


「俺と結婚する野望はある」と前に言ってくれたが、俺の両親に会うのは乗り気ではなかった。

「来世で結ばれよう」と言うくらい逃げ腰だったのに、彼女と一緒になりたい気持ちを押し通してしまい早まったかもしれない。


「もう、電話切るな。真希から電話が掛かってくるかもしれないし」

母に真希は俺のことを好きじゃないと言われて、情けなくも傷ついて電話を切ってしまった。

母の言動と行動の違和感に気がついていたのだから、もっと追求すべきだった。


 一睡もできないまま朝を迎えると、真希の北に向かっていたはずのGPSの位置がブラジルのリオデジャネイロを示している。

 (GPSが壊れたか?!)

 何度、電話を掛けても繋がらず、本当に警察に届け出をしようと思った時だった。


 スマホの着信音が鳴る。

『桐島雨』と表示されて、思わず電話に出た。


「聡さん。おはよー。真希姉ちゃんを探しているね」

「そうなんだよ。実は真希が昨日、母と夜パフェした後いなくなってさ」

「うん。知ってる。ちなみに、真希姉ちゃんは札幌で原裕司の家にいるよ?」

「はあ?」


 全く状況が飲み込めない。なぜ、ここで原裕司の名前が出てくるのか。

雨はどうして、真希の居場所を知っているのか。


「俺は聡さんじゃ真希姉ちゃんを幸せにできない気がしてきたんだ。だから、今は原裕司を応援かな?」

「何言ってるんだよ。原裕司は真希を裏切っただろ。というか、なんで原裕司が復活してるんだよ」

「とにかく、真希は札幌にいるんだな。今から行くから」

「真希姉ちゃんが何で札幌に来たと思う?」

雨は真希が札幌にいる理由を知っているようだった。


「⋯⋯原裕司と復縁する為?」

あまり信じたくないけれど、彼女が原裕司といると言うことはそう言うこと。

「論外! もう、切るね。俺、仕事だから」

冷ややかに言い放つと雨は通話を切ってしまった。


 もう1度かけ直すも、完全に無視されている。

「いや、俺も仕事だし!」

睡眠不足でクラクラするが、俺も仕事に行かなければならない。


とりあえず、雨が真希の無事を教えてくれたのはありがたかった。

原裕司と一緒にいると言うのは、流石に俺を揶揄っているのだろう。

GPSも途中までは北に向かっているようだったし、雨のところにいるのかもしれない。


 モヤモヤしながらも仕事に向かう。隙を見ては真希に電話を掛けるがやっぱり掛からない。


 俺は再び母に電話した。

「もしもし、母さん。真希、昨日2人で話している時に何か言ってなかった? というか、どんな話をしたの?」

 俺の言葉に母は再び溜息をつく。

「別に大した話はしてないわ。五十嵐家と会って、あまりこの家に嫁に来るイメージが湧かなかったみたいな事は言ってたかな。前の婚約がダメになって、慌てて結婚しようと思ったけど違ったみたいな」

「⋯⋯そんな事、本当に真希が言ってたの?」


「本当よ。どうして、私がそんな嘘つく必要があるの? 聡ならあの子に拘らなくても、いくらでも良い子がいるでしょ。お母さんの知り合いにもね⋯⋯」


 俺は母が俺にお見合いをさせようとしているのに勘付き、電話を切った。

何かがおかしいとは思っていた。結婚したいと子を連れてきて、その子がいなくなったのにお見合いの話をする母。流石にデリカシーがないを超えて違和感を感じる。

そして、昨晩まで一緒にいた真希が消えたと言うのに全く心配もしていない。

俺の知っている母は優しい人間だが、別人のように今は冷たく感じた。


「ボス! クライアントがお待ちですが、通しても宜しいでしょうか?」

 秘書の進藤に間近で声を掛けられて驚く。

彼の眼鏡が俺の鼻に当たりそうなくらい距離が近い。


「お前、いつからここにいたの? 顔、近過ぎ、びっくりした」

 キスができそうなくらいに近い距離。

こんな距離に真希の顔があった事もあった。

必死に理性を総動員して我慢して、プロポーズして両親と兄まで合わせた。

一体何がいけなかったのだろう。


「すみません、ずっといました。ボスが取り込み中だったので、声を掛けるタイミングを見計らっていました」

 淡々という進藤の後ろにある時計を見ると、確かに約束の時間になっている。

(真希⋯⋯)

頭の中は真希のことでいっぱいだが、仕事をしなければならない。








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