「真希、本当にどこにいるんだ」
これ程、人が何を考えているか分からなかった事なはい。
雨の何考えているか分からなさは俺を楽しませせた。
でも、真希の考えがわからないのは俺を不安にさせる。
予定されていた仕事を全てキャンセルして新千歳空港に到着する。
ここからどうして良いか自分でも分からない。
真希に電話しても、雨に電話しても繋がらない。
自分が何をしでかしたのか全く分からない。
本当は大切な仕事があった。恋愛なんて仕事に比べれば暇つぶし。
俺の考え方は覆される。
真希への気持ちは恋愛感情だけではない。
「守りたい」「幸せにした」彼女の事を考えるだけで色々な気持ちが駆け巡る。
彼女は俺を「いらない」としているのを認められない。
とりあえず泊まった空港近くのホテル。翌日も雨にも真希にも繋がらない電話。
自分でも人に拒絶されrた経験が皆無に等しくどうして良いかわからない。
新千歳空港に近い慌てて予約したホテルのベッドに横たわりながらずっと考えたいた。
「何がダメだった?」
気になる女の子は落としにかかる前に寄って来た。
真希はその特性からか、俺に男と女の関係を望まない故に彼女に気がある俺を拒否する。
雨はずっと一緒に住んでいたのに、非常に冷たい。
札幌市街地まで出て、相変わらずの寒さに身を抱き締める。
スマホが震え着信を告げる。
「雨?」
「聡さん。真希姉ちゃんが不幸になってる。気がつくと不幸になるのはなんで? 真希姉ちゃんは何も悪いことしてないのに」
感情を露わにしない雨が声を震わせている。
「雨は大丈夫か?」
俺は電話先の彼の動揺が気になった。
出会った時は溌剌として奔放な男の子として現れた桐島雨。
人懐こい彼と、紆余曲折あり彼と住む事になった。
一緒にいて感じた居心地の良ささえも演技だったと思ってしまいそうな彼の姿。
真希が現れ、俺は豹変した桐島雨を見て怖くなった。
真希を襲おうとした彼も、川上陽菜の隣で含み笑いをする彼も俺の知る彼ではない。
彼はいつも俺やマリアの上をいき感情をコントロールしてきた。
俺もマリアも彼をおバカで人懐こい行き場の無い子としか思ってなかった。
「俺の心配? 本当に聡さんはお人よしだね。変わってよ。ちゃんともっと現実を見て。そうじゃないと真希姉ちゃんは預けられない」
震える声で伝えてくる雨。
なぜ、彼が真希に入れ込むのか分からない。
まあ、自分も真希に入れ込んでいるのだから彼のことをどうこう言えたりはしない。
「⋯⋯真希は大丈夫か?」
「⋯⋯」
俺の問い掛けの答えのような、堪えたような泣き声が聞こえる。
俺の中の雨は淡々としていて、斜に構えてて、空気が読め過ぎるくらいに読める面白い奴。
でも、電話先の彼は全く違う。
感傷的で、何を考えているか分からない。
「大丈夫な訳ないだろ? 真希姉ちゃんが大丈夫な時なんで一度もないよ。どうして、みんな真希姉ちゃんを苦しめるの?」
絞り出すような怒りを抑えたような声。
「真希に何があったんだ? それに、雨、お前も大丈夫か?」
「⋯⋯俺は大丈夫。それより真希姉ちゃんに会いたいんだよね。明日合わせてあげるから、指定の場所に会いに来て」
雨に言われた通りの場所に行くと、確かに真希に会えた。
しかし、すぐに彼女は俺の前から姿を消した。
「聡さん、俺、余計なことしたかも」
いつも、ひょうひょうとしている雨が不安そうな顔をしている。
「余計なことなんてしてない。真希に会えた。ありがとう」
俺の言葉に雨はなぜか溜息をついた。
「逃げられてるよ。真希姉ちゃんは聡さんはいらないって。俺は必要だと思ったけど、本人がいらないって言うからどうしようもないね」
見せられたスマホの画面。
GPSの表示は新千歳空港に向かってる。
「真希、俺から逃げようとしてる?」
「そうだよ。マザコン男から逃げようとしてる。理解できないから逃げるしかないでしょ」
「マザコン男って、俺のこと?」
俺の質問に雨は深く頷く。
マザコンだなんて言われたのは初めてだし、自覚もない。
「聡さんは、自分の母親は嘘はつかないって思ってる。俺と真希姉ちゃんは違うよ。嘘ばかりつかれてきた⋯⋯」
雨の色素の薄い瞳が寂しそうな色に染まる。
彼が一緒にいた時間が長い俺よりも、真希に気持ちを寄せる理由は血筋だけではない。
真希と雨には俺には分からない通じ合う何かがある。
「俺の母は、まあ、フツーのどこにでもいる親だよ。なんで嘘をつく?」
「それが分からないなら、もう、巻き姉ちゃんに近寄らないで。一生、ママが入れてくれたぬるま湯に浸かっていれば幸せになれるよ」
雨が俺を睨みつけるような表情で発した言葉。
それは、彼が俺をずっとどんな目で見て来たかを表しているようだった。
施設育ちで、俺とマリアの仲間になりたいと言ってきた彼を俺たちは受け入れた。
全てを監視されているとは全く思いも寄らなかった。
悪びれもせず真実を告げてきた彼を責めようとは全く思わなかった。
俺もマリアも、いつも溌剌としている雨の闇に全く気がついてなかった訳ではない。
不意に見せる冷めた表情、ターゲットを100%の確率で落とす脅威的な行動力。
軽薄で行きどころのない坊やというのは作られた顔だとは気が付いていた。
「真希の居場所。教えて」
俺の言葉を聞くなり、雨は俺のスマホを取り上げる。
「真希姉ちゃんの居場所はこれで分かる。ちなみに、このアプリを押せば声も聞けるよ」
「真希と話せるのか?」
「盗聴してるだけ」
雨の言葉に背筋が凍る。
「俺の母と真希の会話も盗聴してた?」