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第107話 私、貴方とは子作りできませんよ。

「一生1人でいるって言いましたよね」

「その前に家族が欲しかったって言ってた。俺は家族が必要なんだ。俺と君が結婚したら、ウィンウィンだと思わない?」


最初は揶揄われてると思っていたが、よく考えるとおいしい提案のようにも思えて来た。


「本気なら、話聞いても良いですよ。でも、セレブ家庭に嫁入りできるバックグラウンドは持ってません。だから、ご両親からは反対されるかと思います」


私は五十嵐美和子が、「貴方のような子」と憐むポーズを見せながら私を切り捨てたのを思い出してた。


百合子さんはご実家も松濤だが、元夫の服部室長も実家は田園調布と言っていた。城ヶ崎家程ではないけれど、家柄的に釣り合う結婚だったのだろう。


城ヶ崎慎一郎は突然私に握手を求めて来た。私は思わず訝しげに彼を見つめる。


「俺、離婚する時にうちの親にはゲイだってカミングアウトしたんだ。姉さんが跡取り産むのを期待してたのに、離婚だろ。だから、俺と結婚して跡取り産んでくれるなら大歓迎だと思うよ」


彼の言葉に私は目を瞬かせた。


「ゲイって本当だったんですか?」

「そんな嘘つかないだろ。中学の時家庭教師の女にイタズラされて以来、女がダメでさ⋯⋯気持ち悪いんだよ」


先程までの軽快な口調とはうって変わった城ヶ崎慎一郎。

(これは、本当の話だ⋯⋯)


 私の勝手な予想だが、マリアさんがレズビアンなのは幼少期の誘拐が原因。

 私がアセクシャルなのは、親の不倫現場を目撃したのが原因なのかもしれない。今まで、自分は生まれながらにアセクシャルだと思おうとしていた。

 そうでなければ、私は守ってもらう筈の親に捨てられただけでなく人生を台無しにされた事になる。


「私、貴方とは子作りできませんよ」

「俺だって嫌だよ。気持ち悪い。でも、今は体外受精とかあるじゃん」

「出産痛そうですね。実は私痛いのもダメなんです」


 自分の過敏な程の敏感さについても、初対面の彼に話せてしまうのはなぜだろう。

 恐らく彼が自分の秘密を私に明かしてくれたからだ。


「HSCなの? 随分、生きづらさ抱えてるな。まあ、今は無痛分娩とかあるから平気だよ」

 1人で生きてこうと決心した矢先なのに、私の心は揺れていた。


「山田さん!」

名前を呼ばれた方向を見ると、沢田法子が私を追いかけて来た。


「ちょっと散歩してくるわ。俺、あの人苦手」

 私の耳元で囁くと城ヶ崎慎一郎は足早に去っていった。


「私も買い物付き合おうかと思いまして」

「そんな大したものを買う訳じゃありませんし、買い物なんて専門職の方がする仕事じゃなくないですか?」


私の言葉に沢田法子は目を瞬かせる。


「専門職ってパラリーガルの事ですか?」

「そうですよ」

「弁護士から雑務処理係のように扱われて、そんな自覚ありませんでした。照れますね」

沢田法子は事務所にいた時より、随分と明るい表情をしていた。


「もしかして、百合子さんが苦手ですか?」

「バレましたか。私、ああいういかにも陽キャみたいな方苦手なんです。でも、待遇が良いから我慢しなきゃですね。マリアに苦労させられないんで」

 私は頭に疑問が浮かんだ。

「すみません。私にはマリアさんの方が陽キャに見えます」

 マリアさんはキャピキャピして1人でずっと喋っているイメージ。百合子さんは今落ち込んでて、から元気なだけだ。


「マリアは大人しい子ですよ。私は沈黙に耐えられる彼女との関係が気に入ってます。本当に彼女に好きになってもらえたのは私の人生最大の幸運です」


 マリアさんの話をする沢田法子は穏やかな顔をしてる。


「歩きながら話ましょうか」

私の言葉に沢田法子の目が泳ぐ。


「私、陽キャではありませんよ。陽キャに擬態する事もありますが基本暗いです」

「すみません。実はお喋りって何話して良いか分からなくて。昔から苦手なんです人付き合いが⋯⋯」

「でも、結婚してましたよね?」

「結婚なんてコミュ障でもできます」


私は沢田法子の言葉に妙に落ち込んだ。私はコミュ力はある方だと自認しているが、結婚が遠く感じてる。

「⋯⋯そのレズビアンの事は隠してご結婚なさったんですか?」

私の質問が変だったのか、彼女は首を傾げた。

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