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第112話 金の亡者が!

「だいたい、普通、親の不倫現場隠し撮りとかしないだろ。それ見た時の親の反応とか想像できなかった?」

祐司の口撃は続く。とにかく私を攻めたくて仕方がない彼は私が一番傷つくだろうエピソードを持ってきた。

彼を信頼して話した過去のトラウマ。

あの時、彼は私の気持ちに寄り添って頭を撫でてくれた。

本当に彼にはがっかりさせられる。


祐司の大きな声を聞いて、レストランの若いスタッフの男性が駆けつける。

私は祐司に気づかれないように「助けを呼んで」と口を動かした。

彼は頷いて足早に去っていく。


(さあ、どう料理してやろうか)


「5歳の時の私を責めてるの? 流石、横領浮気男」

祐司にしか聞こえないくらい小さい声で呟くと彼は私を威嚇するようにレストランの壁をグーで殴る。

どうやら、彼はDVの傾向もあったらしい。

つくづく結婚しなくて良かった。

従順な彼女でいた時には全く気がつけなかった。


「ふざけんなよ。この金目当ての結婚詐欺師が。五十嵐聡の次は城ヶ崎慎一郎かよ。金への嗅覚すげえな。金の亡者が!」

私の左手の薬指に嵌めてある指輪をチラッと見て顔を真っ赤にする彼。

祐司は私に婚約指輪を買う時、散々色々お店を回ったり調べたと言ったから価値が分かるんだろ。


「ふふっ、素敵でしょ。原さんの指輪とは大違い」

私はわざと彼を刺激するようなことを言う。

このまま私を暴行させて、刑務所送りにしてやるつもりだ。


原裕司の母親にも、もう未練はない。

そして私はこの男の顔をもう見たくもない。


「⋯⋯本当、酷いな。俺は真希のこと本当に好きだったのに」

残念なことに彼は被害者ムーブをかましだした。

期待外れな反応に私はため息をつく。

男女の好きが理解できない私は彼に全く共感できない。


「何、自分に酔ってるの? 浮気して左遷されただけの話だよね」


「こっちはなあ。今、渡田が置き土産のせいで大変なんだよ。転職の話もあったのに、さっきの騒ぎでなくなったしな」


私はワザとニヤリと笑った。

「まさか! お前の仕業か? お前が渡田に頼んだんだろ!」

原裕司は自分が密告される程、嫌われていることに気がついていない。

そして、全て私のせいだと決めつけようとしている。


私は敢えて黙りこくった。

否定なんてしてあげる気はない。

沈黙は肯定だと判断し、勝手に自滅すれば良い。


「本当に最悪だな。結局、城ヶ崎慎一郎が落とせそうだったから、俺に流行りのLGBTQとか言って別れるように仕向けたんだろ。お前は嘘ばかりだ」

私は心底、原裕司と自分の人を見る目のなさに幻滅した。

私がどれくらいの気持ちでアセクシャルをカミングアウトしたかなんて彼には分からない。

彼にとってLGBTQは流行でしかないが、私にとっては現実。


「浮気男が煩いよ。浮気の遺伝子って受け継がれるんだね。子孫残さない方が良いんじゃないの?」

敢えて私は彼の家族のことを持ち出す。

家族がバラバラになった事も私のせいだと彼は考え出すだろう。


心から馬鹿にした視線を向けると、彼は私の首を締め上げ出した。

「お前! 本当に最悪だ!」


(くっ、苦しい⋯⋯死ぬ)

血走った瞳に浮いた血管。

私は彼をソウルメイトだと思って、彼との未来を夢見た日もあった。

だけれども、これが彼と私の結末。


そして、彼の人生はここで終了。

こんな坊ちゃんに言われたくない。

必死で歯を食いしばって生きていた5歳の私を非難した彼には人生終了してもらう。


「何、やってるんだ」

城ヶ崎慎一郎の声と共に、原裕司が手の拘束を緩める。


「コホッ、コホッ、慎一郎さん、警察呼んでください。今、この人に殺されそうになりました」

私の言葉に原裕司が「ちょっと、何言って」と慌てる。

ゾロゾロとギャラリーが集まってきたところで、私は咳をしながら涙を流した。

泣くのは簡単だ。思い出せば涙が出るような悲しい経験はいっぱいしている。


「誰か原裕司を拘束して、今、警察呼ぶから。こいつ俺の婚約者を殺そうとしたんだ」

慎一郎さんの言葉に2人の男が動いて、祐司を拘束する。


「待ってください、俺、殺そうとなんてしてません」

祐司が拘束から逃れようとすると、他の男たちもゾロゾロと集まり彼を拘束した。


「首に手の跡と、ネックレスの跡がくっきり⋯⋯苦しかっただろう、真希」

慎一郎さんは本気で心配してくれているようだ。

「はい、あと少し慎一郎さんが来るのが遅かったら窒息死してたと思います。怖かった⋯⋯」

私がブワッと泣き始めると、周りが鋭い視線で祐司を睨むの分かった。


自分の浮気で婚約破棄した自業自得の男が、元婚約者が新しい相手を見つけたことに嫉妬して強行に及んだ殺人未遂事件。


原裕司は会社も解雇になり、刑務所行きだ。

彼も私のように親から見捨てられれば良い。

茶番だと思っていた復讐だったが、私流に修正したことで心からスッキリした。

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