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第15章 迷走する私たち

第120話 再婚なさるんですね。(聡視点)

マリアからの伝言を受けて服部百合子法律事務所に赴く。

俺を見るなり、見掛けたことのある顔が二つこちらを向いた。


服部百合子とマリアのパートナーの沢田法子。


服部百合子は何度かパーティーで挨拶した事がある。

年齢的には俺よりも20歳くらい上なのに、美人でエネルギッシュであるが故に年齢を感じさせない。


彼女が『別れさせ屋』に依頼に来たときはマリアが対応した。

マリアは彼女を知っていたが、彼女はマリアの事を知らなかったらしい。

マリアはパーティーのような場所が苦手なので無理もない。


マリアが小学校1年生の時にあった被害は内容さえ明らかにされていないが、皆が知っている事だった。

彼女はそれからコミュニティー内でも腫れ物のように扱われている。

彼女がようやっと自分で愛する人を見つけたと思ったら自殺未遂。


俺は沢田法子の顔をチラリと見た。

ショートカットで俯きがちの彼女は男の俺から見ると魅力が分からない。

マリアは乗馬をしている彼女の姿が、男装の麗人のようで美しくて一目惚れしたと言っていた。


マリアは昔は御伽話の王子様に憧れるような子だった。

変態男に傷つけられてもその気持ちは残っているのだろう。

自分を決して傷つけない女の王子様だと沢田法子を思ったのかもしれない。


大学時代、2人が付き合っていた事は知っていた。

ラブホテルの動画を見た時に俺は沢田法子に良い感じは持たなかった。

それでも、マリアは彼女とヨリを戻した。

本当に彼女を思うなら直感を信じて、マリアを止めるべきだったと後悔しても遅い。

まさか自殺未遂をする程追い込まれるとは思わなかった。


「五十嵐さんよね。久しぶり。もしかして依頼? なんて冗談よ。同業者だもんね」

服部百合子が立ち上がり俺に挨拶してくる。


「すみません。ここで勤めている山田真希に会いに来たんですけれど、今外出中ですか?」

「真希ちゃんの知り合いなの? 世界って狭いわね。実は真希ちゃん来月、私の義理の妹になる予定なの」

俺は城ヶ崎慎一郎が、真希と婚約した事を知っている。

それなのに、実際に彼の姉から聞いてショックを受けていた。


「⋯⋯知ってます。慎一郎さん、再婚なさるんですね」

頭が混乱していた。城ヶ崎慎一郎に関しても俺は顔見知り程度にしか知らない。

確か某企業の社長令嬢と政略結婚したが離婚したばかりだったはずだ。


離婚原因までは知らないが、跡取りがいない状態で別れたのだから再婚は望まれていただろう。

城ヶ崎百合子の様子から察するに城ヶ崎家は真希を歓迎しているようだ。


今更ながら銀座での顔合わせの時の記憶が俺を苦しめる。

俺は両親に甘やかされて育った次男坊だ。

自分の選んだ女を当然親は受け入れてくれると思っていた。


でも、思い起こせば、あの夜、父も兄も母も真希に対して歓迎する空気を出していなかった。

デザートも食べずに、真希をあの場から連れ出した母は彼女に何を言ったのだろう。


(問い詰めるべきだった?)

違う。本来なら先にうちの家族を俺が真希を受け入れるように説得すべきだった。

何もかも、自分の甘さが招いたこと。



「それで、今、山田さんはどちらにいるんでしょうか?」

俺の質問に答えたのは沢田法子だった。


「クリスマスイヴですよ。早上がりで、婚約者とデートです。モンドニアホテルのクリスマスディナーなんて、本当にセレブですよね」

「あら、沢田さんも行きたいの? じゃあ、私と一緒にクリスマスフレンチデートする? 奢るわよ」

服部百合子の軽やかな誘いに沢田法子が顔を顰める。


「人気レストランでこの時期フレンチなんて、何ヶ月も前から予約埋まってるでしょ」

「大丈夫よ。コネがあるから」

「お断りします。私、恋人がいるんで」

ニヤリと笑った沢田法子の口元に嫌な予感がする。


違和感、直感を見逃すことで俺はもう後悔はしたくない。

マリアのことも真希のことも、もっと俺がしっかりしていれば守ってやれた。


「沢田さん、俺のこと覚えてますか? よかったら少し外で話しませんか?」

俺の言葉に沢田法子がチラリと服部百合子を見る。


「どうぞどうぞ、休憩がてら行ってらっしゃい」

俺は沸騰しそうな怒りを抑えながら沢田法子を外に連れ出した。



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