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第121話 セレブ界は甘いですね。(聡視点)

事務所のある雑居ビルからでると、沢田法子は面倒そうに睨んできた。

「マリアの自殺未遂のことですか? 私が責められる覚えはないんですけど。そもそも私がすぐ発見したから、今、彼女は生きてるんですよ」


悪びれない彼女の様子を見て、関わりたくない種類の人間だと思った。

しかし、しっかりと釘を刺さなければならない。

マリアは気弱で流されやすいから、別れたと言っても擦り寄られれば結局ヨリを戻してしまいそうだ。


「君とヨリを戻して1ヶ月も経たずに自殺未遂。マリアはもう別れたと言っている。恋人がいる? マリアの事を言っているなら、彼女から離れてくれ」

「ただの幼馴染に何でそんな事を言われなければいけないんですか?」

「ただの幼馴染でも、君よりも彼女を大切に思ってるからだよ」


真剣に話しているのに、沢田法子は事務所の方を見上げていた。

早く俺との話を切り上げて仕事に戻りたそうだ。


「今日、私、マリアのせいで遅刻してるんですよ。今、私、時給勤務なんです。山田真希は最初から正社員採用なのに不公平ですよね」

服部百合子は沢田法子をお試しで採用しているのだろう。

マリアからの話を聞く限り、経験のないパラリーガルだ。


「マリアは君のせいで自殺しようとしたんだぞ」

「私のせいじゃないですよ。マリアの心が弱いせいです。純粋培養のお嬢様って本当に繊細ですよね」

肩を竦める沢田法子を殴り倒してやりたい。


マリアはとても強いと言い返してやりたかった。

彼女がどれ程の恐れや葛藤と戦いながら生きてきたか彼女は知ろうともしない。

そして、こんな話しても理解できないような馬鹿女に説明してやる義理もない。


「とにかく、もうマリアと関わらないでくれ」

「そこまで言うなら手切れ金と、今までの世話賃くれませんか」

沢田法子が想像以上のクズで寒気がした。


「いくら欲しいんだ?」

「一千万円でどうですか?」

俺は思わずため息をつく。

離婚して職歴もない彼女は、自分に好意を持っていたマリアを利用した。

彼女の目当ては金。


「五十嵐さんがお金を出してくれないなら、マリアの両親に請求します。勘当したなんて言葉だけで、結局、可愛い娘を手放すなんてしないでしょ。セレブ界は甘いですね。城ヶ崎百合子も勘当されたとか言いながら、親のコネ使いまくりですよ」

ゆすり、恐喝、どんどん彼女から言葉を出させる。

事務所の所長である城ヶ崎百合子の批判も大歓迎だ。



「反吐が出そうな女だな」

「いやいや、私より五十嵐さんが振られた山田真希の方が酷いですよ。御曹司狙いなんですかね? イガラシフーズと城ヶ崎トラベルホールディングズだったら、私はイガラシフーズ選びますけどね」

「真希にも関わるな、このクズ女が」

「関わるなって、私、同じ職場ですよ」


ケラケラと笑う沢田法子は俺の前で取り繕う気はないようだ。

ちょうど良い、こいつの本性を全て暴き出してやる。


「どうして、男って山田真希みたいなあざとい子が好きなんでしょうね。五十嵐さんもモテそうなのに、趣味悪い」

ふと、今、真希がどうしているか気になった。

城ヶ崎慎一郎とデートだと言っていたが、彼女は今幸せなんだろうか。


受け入れてくれる家族もいて、彼といて幸せを感じているのなら俺の出る幕ではない気がする。

原裕司への復讐をやり過ぎていると真希の精神状態を心配していたマリア。


彼が殺人未遂事件を犯したのが真希の誘導だと考えるのは、真希を見てきた俺も思った事だった。

相手を煽って自爆させる彼女の復讐のやり方にしっかりと当てはまる。


「君には関係ない。それに、これで君は終わりだ」

俺はポケットからボイスレコーダーを出した。

それを見て沢田法子が目を見開く。


「一千万円の恐喝音声、城ヶ崎百合子に持っていくか、警察に持っていくか」

「盗聴してるとか、最悪」

「俺の要求は1つ。マリアと真希の前から消えろ」

「ふんっ、振られ男が偉そうに。こっちだって、もうメンヘラ女とは関わりたくないわよ」


沢田法子はその場で、事務所に電話を掛け仕事を辞めると告げる。

彼女はそのまま駅の方にズンズンと歩いて行った。


城ヶ崎百合子事務所には俺の事務所から経験あるパラリーガルを派遣すれば問題ないだろう。

俺はタクシーを呼び、真希に会いに行く事を決意する。

来月、結婚する相手と楽しくクリスマスデートしている彼女に何を言いに行く気なのか自分でもわからなかった。

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