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第124話 貴方が好きです。一緒にいたい。

「はぁ? 恋人?」

聡さんが驚いたような心配したような顔をしている。

つくづく私は最低だ。


生活の安定の為に好きでもない人と結婚する人間なんてごまんといる。

私は完全に自分がなぜ結婚したいと思っていたかを見失っていた。


城ヶ崎慎一郎は私のアセクシャルとしての特性を理解し、経済力もある。

客観的には完璧な結婚相手で、美味しい話だと飛びついてしまった。


私は自分がなぜこんなに苦しいのかを理解できていなかった。

貧しさが苦しかったのではなく、家族からの無関心が苦しかったのだ。

恋愛感情ではなく家族愛に触れてみたかった。


家族愛が得られると思って原裕司と婚約したのに裏切られてた。

聡さんと結婚したいと願っても、彼の家族から拒否され絶望した。

一人で生きていくと決めたのに甘い提案に乗っかり城ヶ崎慎一郎と婚約。


私は自分でも何がしたいのか分からなくて迷走していた。


「⋯⋯私よりマリアさんですね。一命はとりとめたんですよね」


生に縋る私は経済的安定の為に自分を殺した結婚も選べる。

マリアさんは生に縋らないくらい辛い思いをして来たのだろうか。

私は世界で一番自分が不幸のように思っていたが、死にたいと思ったことは一度もない。


「マリアは大丈夫だ。明日にでもお見舞いに行くか?」

「はい。行きたいです」


自殺未遂をする程追い込まれた人間に会うのは初めてだと思ったが、二回目だった。


母は自殺する前に経済的支援を求めに祖父の家に来た。

私を一瞥もしなかった母は脱力したような表情でひたすらに金を要求していた。

娘の私を一度も見ない彼女に絶望していて気が付かなかったが、彼女自身も絶望していたのかもしれない。


そんな可能性を今まで考えたことはなかった。

母が私を見られないくらい追い詰められていた可能性。

思い出せば記憶にある母はいつも追い詰めらていた。

川上陽菜のターゲットとされ虐められ、家ではモラハラ。


それが不倫をして良い理由にはならないけれど、母は逃げるように不倫をした。

川上陽菜が私の父と関係したのも母への嫌がらせ。

私の視点から見ても、どこにも愛など存在しない。


誰も幸せにならなかった不倫の結末。

みんなが持っているような恋愛感情を自分が持っていないのが苦しいと思っていた。

でも、本当は皆そんな情熱的には生きてないのかもしれない。


「マリアはご両親も支えてくれるから大丈夫だ。俺は真希が心配。どうして恋人がいるような男と婚約をしたんだ?」

支えてくれるご両親がいるマリアさんを以前の私なら嫉妬していたかもしれない。

しかし、今は心からほっとしている。

支えがあって本当に良かった。


「聡さんと結ばれないのが苦しかったからです。とにかく心と経済的安定を求めた時に城ヶ崎慎一郎から結婚を提案されました」


聡さんの前ではずっと強気な姿勢を貫いてきた。

出会った頃、私の一番恥ずかしい姿を見た彼。

拒絶されているのに必死に男に縋る私は本当に今思い出しても恥ずかしい。

彼から思いを寄せられた時は驚きと戸惑いでいっぱいだった。


「真希も俺と結婚したいって思ってくれていたの?」


聡さんの瞳が潤んでいる。

私は今更、彼に縋っている自分が情けなさに恥ずかしくて穴を掘って入りたいくらいだ。


(でも、助けて欲しい)


寂しくて、迷走して、この先ずっと一人ぼっちになるような道を選んでしまった。


道を間違ったと気が付いても、婚約してしまい一方通行で戻れない。

城ヶ崎慎一郎は全ての情報を最初から明らかにしていて何の落ち度もない。

私を跡継ぎを産んでくれる道具としてちょうど良いと思って契約した彼。

今はルンルンで恋人といちゃついているのだろう。


「結婚したいです。聡さんが好きです。私は聡さんと結婚したい」


メイン料理が来たのに全く手をつけない私たち。

私は酔ったわけでもないのに、本音をぶちまけていた。


男女の好きではないけれど私にとっては大事な「好き」だ。

嫌いな人ばかりの世の中で私が唯一と言って良いくらい好きな人。


私はやっぱり、五十嵐聡と一生一緒にいたい。


聡さんは驚いたように固まっていた。

当然かもしれない。


私は彼を空港で冷たく突き放した。

しかも今は他の男の婚約して、婚約披露パーティーまで開いている。

今まで沢山の地雷女に出会ったけれど、私自身が最上級の地雷女だ。


聡さんは私の危ない行動をたくさん見て来ているだろうし、原裕司を刑務所送りにしたことも知っているだろう。

私を好きだった時が彼には確かにあった。

でも、客観的に今の私をまだ一緒になりたいと思っているとは考え辛い。


黙って何か考え込むような仕草を見せた聡さんを見て居た堪れなくなり立ち上がる。

今、彼に拒否されたら私はダメージが大きい。

何だかんだ可哀想な私を優しい彼は受け入れてくれるんじゃないかという期待をしてしまっている。

その期待が打ち砕かれた時、私は自分がどうなるか分からない。


「真希、待って。行かないで。⋯⋯その、実は戸惑ってる。城ヶ崎慎一郎の恋人ってもしかして⋯⋯」

私は聡さんの問い掛けに血の気が引くのを感じた。

レズビアンのマリアさんと接して来た彼。

当然、城ヶ崎慎一郎がゲイである事にも気づくはずだ。


城ヶ崎慎一郎は実の姉にもゲイであることをカミングアウトしていない。

両親以外にはガッツリ隠している。社会的地位がある彼にとってゲイであることは悲しい事にマイナスイメージに繋がる。




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