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第125話 ご両親が私を許すはずありません。

「既婚者とか? 前回の離婚理由は不倫だったのか」

「⋯⋯あ、まぁそうですね」

聡さんは不倫相手に女を想像しているのだろう。

城ヶ崎慎一郎は10年結婚生活を送っていた。


その間、夫婦生活がなかった事で元奥さんに不倫を疑われたらしい。

城ヶ崎慎一郎は諦めてゲイをカミングアウトし、体外受精を提案。

元奥さんは「気持ち悪い!」と彼を罵った上で離婚した。


元奥さんに恨みを抱いた城ヶ崎慎一郎は自分の鬱憤を晴らすように私の原裕司への復讐を手伝う。


あれは、私の為ではなく自分の為。

彼はいつだって自分の為にしか動かない。

そんな彼にも大切な人がいて、私は利用されている。

それが自分の子供時代の状況と被って苦しくなっていた。



「それで、真希なら不倫を許してくれそうだから結婚を提案されたと?」

「⋯⋯うーん、そうかもしれません」


私は自分が城ヶ崎慎一郎の計画にハマっただけだと分かっている。


不倫は大嫌い、不倫や浮気をする奴は許せない。

それなのに彼が同性愛者だという悩みを打ち明けて来た事で寄り添う気持ちになってしまった。


城ヶ崎慎一郎のやっていることは不倫。

相手が男であろうと、女であろうと不倫。


そう思うと、ますます彼と婚約破棄したくなってくる。


「あの人、年上が好きそうだもんな。でも、跡継ぎが必要だから真希って訳か」

「年上⋯⋯」

私は城ヶ崎慎一郎のお相手の男に会った事はない。

城ヶ崎慎一郎は37歳。彼より年上というとアラフォーか、アラフィフ?

23歳の私をスカウトしたのは間違いなく子供を産ませる為だ。


何だか、城ヶ崎慎一郎の作戦が完璧過ぎて怖くなってきた。

私は彼の姉の弁護士事務所で働いている。

彼の姉の百合子さんはとても良くしてくれて、私を拾ってくれた恩義がある。

そして、彼の姉さえも知らない彼がゲイだという秘密を私は知っている。


「すみません。聡さん。さっき、結婚したいと言った事は忘れてください。マリッジブルーでした」


冷静に判断すると、婚約破棄するのは難しい。

城ヶ崎慎一郎が秘密を知った私を手放すとは思えない。

確かに彼には恋人がいるが、婚約を受け入れる前に私はその事実を承諾してしまった。


婚約破棄になったら、慰謝料を請求されるかもしれない。

お世話になっている百合子さんも悲しむ。

流石に血の繋がらない私より弟の味方につくだろう。


「いや、忘れられないし。真希、大丈夫か? 顔、真っ青だぞ」

私は今更ながら、原祐司の母親が私を引っ叩いた理由が分かった。

カモフラージュに使われるのは辛い。


「大丈夫です。ほら、美味しそうなクリスマスディッシュでも食べましょ」

頭の中がクラクラする。パートナーがいても一生孤独だという将来を受け入れるより、おひとり様の方が寂しくない。

城ヶ崎慎一郎といる時の私はいつも苦しい。

まるで観賞用に利用されて息苦しさを感じている金魚のようだ。

側だけ整えられても、私の心が埋まる事はない。


「真希、行こう! このホテルの最上階に今、城ヶ崎慎一郎がいるんだよな」

立ち上がった聡さんの手首を掴み私は必死で引き留めた。


「⋯⋯私は、きっと彼との結婚に耐えられず別れるかもしれません。でも、今晩彼のところに行くのは違います」

聡さんが訝しげに私を見つめてくる。

今までの私を見ていたら、浮気相手の現場に特攻すると思われているのだろう。


城ヶ崎慎一郎は公にはできないが今、一緒にいる相手を大事にしている。

そして、彼自身も私を後継を産むパートナーとして精一杯尊重した。


私のところまで来ると突然、聡さんが跪いた。

「真希は今一体何を考えてるの? 一つくらい真希の願いを叶えさせて欲しい」

心のコンセントが混戦し過ぎてショートしそうだ。


聡さんは自分の言っていることが私にとって、どれくらい心の奥底に届いているかを分かっていない。

「私の願いを叶えたい」そんな事を言う人間は今まで存在しなかった。

私を利用して願いを叶えようとする人間ばかりだ。


「じゃあ、今日は聡さんの家に言っていいですか? 久しぶりにゆっくりしたいです」

祖父と過ごしていた家に一人で帰れば気が狂いそうだ。

あの広く古い家に帰れば嫌でも自分が一人だと思い知らされる。


「いいよ。真希帰ろう」

私の手を取る聡さんに私は首を振る。

「流石にここのクリスマスディナーを楽しんでから帰りませんか?」

楽しめる心境ではないけれど、私を思ってくれる彼と食べる食事ならば味がする。

「そうだな。今、冷蔵庫空っぽなんだ」

「ええっ?」

私はこれまで何の憂いもなく生きていると思っていた聡さんの現状を知る。

振られた事のない彼が初めて振られた。

空路で15時間も追いかけた私に⋯⋯。


空っぽになって当たり前だ。

彼の母親との間にあった事も言いにくいと判断し離さないままに彼を突き放した。


「聡さん。城ヶ崎慎一郎さんとの婚約の件は置いておいても私たちは結婚できないと思います。ご両親が私を許すはずありません」

私は彼の母親との間にあったやりとりを洗いざらい話した。





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