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第43話ゲートと門番 2

 覚悟を決めて目を瞑った私の周囲を、突然強風が吹き荒れる。


「え!?」


 私は突然のことに驚き、目を開ける。


 すると眼前に迫っていたはずの悪魔達は、謎の突風に邪魔をされ、一定の距離から私に近づけないでいた。


 風は次第に強くなり、私をそのまま空中に浮かせ始める。


「なによこれ!」


 私だけでなく、悪魔達までもが驚いている様子を見るに、彼らのの仕業ではない。もちろん私でもない。今の私にはそんな魔力は残っていないのだから。


 驚く私と悪魔達を無視して、風はそのまま私を崖下に引っ張りこむ!


「嘘でしょ!?」


 私は悲鳴を上げながら崖下に転落していく。


 転落していく最中も、風が私のまわりを囲っているのを感じた。落ちているような、飛んでいるような、不思議な感覚。


 落ちながら上を見上げると、悪魔達は翼を広げて落ちる私を追いかけてきていた。


「ぶつかる!」


 地面に衝突する直前で、急に体が空中で停止する。


 一息ついたと思ったら、そのままグイグイと引っ張られるように、窪みの大地のゲートに向かって猛スピードで飛ばされる。


「一体何なの?」


 私は風を切りながら不気味に思う。


 背後を見ると、悪魔達も相変わらず私を追いかけ続けている。


 そのまま飛ばされていると、ゲートが間近に迫っていた。


 このままではゲートにぶつかると思った瞬間、急に全身を包んでいた風が掻き消え、私は地面に放り出された。


 猛スピードで飛んでいた最中に放り出された私は、勢いそのままに地面に叩きつけられ、ゴロゴロと勢いが収まるまで転がり続ける。


「くっ!」


 全身がドロドロなのは勿論のこと、あちらこちらに擦り傷が出来て、体の至る所から少量の出血をしていた。たいした傷ではないが、地味に痛い。


 ようやく体が止まった私を、追ってきた悪魔達が全方位を取り囲むように降り立つ。


「結局ここまでってことね……さっきの風は意味が分からないけど」


「伏せて……」


 私が言い終えたと同時に、脳内に声が響いた。念話だ。


 どっちにしろこのままでは助からないので、言われた通りに出来るだけ低く伏せる。


 私が伏せた瞬間に、私の全方位を取り囲む悪魔達の体が、横一線に真っ二つに切り裂かれた!


「えっ?」


 なに? なんなの? どうなってるの?


 私の脳内は疑問で溢れる。


 意味が分からない。あの風も、あの声も、悪魔達を切り殺した何かも……


「誰?」


 私は崩れ落ちた悪魔達の外に向かってたずねる。


 一応は助けてくれたのだから、いきなり殺されることはないはずだ。


「誰……私はゲートの門番」


 その声はゲートから聞こえる。


 私がゲートに目を向けると、ゲートが開き、中から真っ黒なフードをスッポリと被った、体長二メートルほどの大鎌を持った何かが現れた。


 そのシルエットから人型だとは思うが、性別という概念はなさそうだった。さっきの声も判別はつかない。


 その者には足がなく、地面に立つわけではなくずっと浮いている状態だ。


 とにもかくにも良く分からない存在だが、一つだけハッキリしているのは、途轍もなく強いということだけだ。


 さっき上級悪魔三十体を一瞬で葬ったのもそうだが、その存在をゲートから出しただけで空気が震えた。強い魔力を持つ証拠だ。予想だが、カルシファーやアザゼルよりも魔力の強さだけで言ったら上な気がする……


「あなたがレシファーが言っていた門番。異界とこの世界のあいだに立つ者……どうして私を助けたの? あなたは異界とも通じている。どっちかといえば異界寄り、悪魔達の味方ではないの?」


 私は真っ先に抱いた疑問を口にする。


 そもそも悪魔の味方で無いのなら、こんなところにゲートの入り口なんて作らないはずだ。


 どう考えたって悪魔寄りの存在。私を助ける理由がない。


「頼まれた」


 私の問いかけに、無機質な声で淡白な返答をする。


 なんというか会話というよりも、答えが決まっている機械と話しているような感覚だ。


「頼まれた? 私を助けるようにって? 誰に?」


 異界側、特に悪魔側の者が、私を助けるようにお願いすることは無いと思うのだけれど……


「レシファーに」


 ゲートの門番は相変わらず無機質な声で、懐かしい大切な人の名前を口にした。


 ……レシファー? レシファーって言った? 


 その名前を聞いた瞬間、どうしようもなく涙が溢れてくる。


 私の契約していた悪魔、新緑の悪魔、冠位の悪魔、呼び方はいろいろあるけれど、どれも私にとっては違和感のある呼び方だ。どちらかといえばパートナー、家族……そういった呼称のほうがしっくりくる。


「でもレシファーは死んだはず……どうやってあなたにそれを頼めるの?」


 私は質問してから、愚かな質問だと気がついた。


 前にレシファーが言っていたではないか。悪魔が死んだあと、門番から首に呪いをかけられると。


 その時にこうなることを予期して、門番に私の援助を求めたってこと?


「死んだときに話した。強い魔女がここにくるから、援助して欲しいと頼まれた。相手は冠位の悪魔、無視は出来なかった」


 私は涙ながらに頷くと、門番はさらに話を進める。


「だからお前を助けた。私は異界化は許可できない。だが私は契約によりここから動けない。それを知っていてアザゼル達は、このゲートをこの場所に設置した」


「ゲートの設置場所はアザゼルが決められるの?」


 不思議な点はそこだ。


 この門番がこの空間の異界化を良しとしないのなら、ここに設置しなければ良い。こんなところに異界のゲートを設置しなければ、問題はないはずだ。


「ゲートの設置権は、冠位の悪魔にのみ与えられた特権。私の権能は、この世界で死んだ悪魔が、再びこっちの世界に来るのを拒絶することしか出来ない」


 つまりこの門番は装置のようなもので、あらゆる権利は冠位の悪魔が握っていると……


「じゃあもう一つ質問よ。このゲートを壊せば、異界化は止められる?」


 もし可能なら、ここでゲートを壊してしまえば異界化の計画は阻止できるはず。


「一時的になら可能」


「どういう意味?」


 相変わらず門番は、無機質に淡々と答える。


「一度ゲートを壊しても、このゲートはいくらでも存在する。冠位の悪魔が再び設置してしまえば、状況は一緒」


 それじゃあどうすれば…………





 いや、でも……それしかないか……


 私は考えた末、一つしかない答えに辿り着いた。


「じゃあ私がこのゲートをくぐって異界に行くわ!」


「行ってどうするの?」


 門番は僅かに首を傾げる。


「行って、この世界の異界化を狙っている冠位の悪魔を全員殺してくる」


 私は門番にそう提案した。


 正直これしかない。


 このゲートも門番も道具に過ぎないというのなら、悪い使用者をどうにかするしかない。


「だから私を通して!」


「それは構わない」


 門番は、あっさりと承諾した。


 あっさり承諾してもらえて助かった。


 でも私には、もう一つだけお願いがある。


 交渉だ。これは賭けだけど。


「この戦いは相当難易度が高いわ」


「そうだね」


 門番は、不思議そうにしている。私が何を言いたいのか分かっていない様子だ。


「だから、成功報酬を頂戴」


「どんな?」


 門番はあっさり聞き返してきた。


 意外にも成功報酬自体はオッケーらしい。


「私が異界化計画を阻止した暁には、レシファーとポックリの二人の悪魔をこっちに通して欲しいの!」


 私のこの大胆な提案に、門番は固まってしまった。


 それもそうだろう。


 この世界で死んだ悪魔は、二度と異界からは出られない。


 このルールは絶対だったはず。


 私はそれを覆せと言っているのだ。


「条件付きならいい」


「条件?」


 今度は私は首を傾げる。


「一つ、必ずカルシファーとアザゼル両名を絶命させること。二つ、お前が望むその二人をこの世界に戻す際、この門番と契約をしてもらう」


「どんな契約?」


「もし再び、この世界の異界化を望む者が現れた時、その対処をしてもらう」


 門番の提案はなかなかのものだった。


 私に死ぬことを許さない契約だ。


 ずっとこの結界の中で、見張り続けろという契約だ。


「良いわよ!」


 私は一切迷わずに、そう決断した。


 あの二人と再び笑いあえるのなら、どんな契約だってしてやる!


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