場所は、『商区』の小川。
人々が寝静まった、真夜中。陸と陸を結ぶ橋の真ん中で、黒い影が蠢く。
「さあ恋の結末を届けにきたぜ……【秋の田の 穂の上
「キエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
泡沫の扇子から紅葉が吹き荒れ――全身が真っ黒に染まった女・【
そして、紅葉が泡沫の扇子の中へと戻ると同時に、白装束の女性が地面に倒れた。
「さあ、出てこい……お前さんが本当に眠る場所は、こっちだ」
女から出てきた黒い霧は空へと向かうが、引き寄せられるように泡沫の元へと戻り――やがて泡沫が掲げる白紙の巻物の中へと吸い込まれた。
「うた!」
その時、大柄な男を背負った賀照がその背に声をかけた。
泡沫は振り返り、賀照の抱える男と、巴が介抱している白装束の女を見て、安堵したように目を伏せた。
「今回も、無事お勤め完了のようだね」
巴が言った。
「まったく、次から次へと」
「確かにな。最近、ちょっと多くねえか?」
泡沫の零した愚痴に、賀照が言った。
「ああ、それなんだけどね……」
巴が何か思い出したように言った。
「これ、全部、同じ【怨念】が起こしているみたいなんだよね」
「同じって……ここ最近の全部ですか?」
賀照が問い返すと、巴は静かに頷いた。
「ここ最近の【
巴の言葉に、泡沫は静かに頷き、賀照はよく分かっていない様子で首を傾げた。
「ここ数日の【
巴は続ける。
「怨念を宿しているのなら、遅かれ早かれ【
「周囲に影響を与えている、そのナニカを早々に鎮めねえ限り、【
泡沫の言葉に、巴は「そういうこと」と頷いた。
「誰だって、恋心を喪った直後はひどく傷つくもんだ。だけど、誰もが傷心した想いを怨念に変えるわけじゃねえ。踏みとどまる奴、そこから何かを学ぶ奴、新しい恋心を生み出す奴……様々だ。だが、そのナニカは、そういった乙女を自分と同じ道へと無理やり引きずり込む」
怨念を宿したところで、全員が【
心が傷ついても、痛めつけられても――人の心を捨てずにいる乙女もいる。
「……何とかしねえといけねえな」
「珍しいな、うた。お前がそんなに怒るなんて」
「おいおい。あっしは別に怒っちゃいないよ」
「そうか? いつもより空気がちょっち冷てえ感じがしたが?」
こういう時ばかり目敏い。
泡沫はキョトンとした顔でこちらを見る賀照に、有無言わせない笑みを向けた。
「気のせいだろ」
「そ、そうか」
「それより、こっからのことだ。そのナニカに影響された【
そこまで言った所で、泡沫は巴を見た。
「巴さん……」
「ああ、分かっているよ。私はここ最近起きた身投げについて調べればいいんだね」
「お願いするよ。それから、賀照」
「おう!」
「お前さんは……あっしへの借金の返済しろ」
「何で!? いや、大事かもしれないけど、何でここでそれ!?」
「気分だよ」
「どんな気分だよ!」