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21.〈バーナ・グローリア〉

 僕とルキアさんは、シエルに言われるがままに、僕達が泊まっていた宿屋に向かった。宿屋に辿り着くと、店主のバーナさんが、僕たちを待っていた。


「お待ちしておりました。シリル君。いや、


「何故、僕の名前を……」


 僕の名前を知っているのことに対し、戸惑いを隠せずにいると、バーナさんは椅子から立ち上がり、胸に手を置き、頭を下げた。


「ば、バーナさん!?」


「儂……いや、わたくしは、『バーナ・グローリア』と申します。改めて名乗りますと、なんだか恥ずかしいですな」


(喋り方といい、『グローリア』って、この国の名前だよな?)

 バーナさんの名前と口調に疑問を抱いていると、バーナさんは少し、苦笑いを浮かべた。


「困らせてしまい、申し訳ございません。順を追って、お話しさせていただきます」


「は、はぁ……?」


 僕たちはバーナさんに促されるまま、席に着き、彼の話を聞くことになった。


「それでは、まず。わたくしの名前についてなのですが、お察しの通り、わたくしはこの国の王・ルモンドの先祖なのです」


「はぁ!?」


 僕は驚きのあまり、声を上げるとシエルに膝を蹴られた。


「あまり大きな声を、出さないでくれないかい? 外に漏れる。君たちの居場所を、特定されてしまうだろうから、静かにして」


「あ、はい」


 シエルの言葉に、僕は大人しく頷いた。


「驚くことは当たり前でしょう。この〈グローリア帝国〉を創り上げたのも、わたくしですから」


「それでは、先祖であろうお方が……」


「生きている理由としては、とある〈悪魔〉との、契約を果たしたからです。そして、を得たわたくしの代償は、全ての神経を遮断する。ですので、今のわたくしは、体中の神経がない状態であり、味覚や痛みなどの神経も全くありません」


「でも、神経を遮断して楽なんじゃない?」


 シエルはバーナさんにそう問うが、バーナさんは目を瞑り、今までのことを思い出しているかのように、首を振った。


「いえ。決して楽ではありませんよ。味覚がなければ、味もしない。美味しいという概念を失くしてしまったのと同時に、痛みを感じないと、死んでいるのではないかと、思う日々もございました」


「じゃあ、何故。悪魔と契約を果たしたんだい?」


「……それは。分かりません」


 バーナさんはどこか、悲しく、辛そうにそう答えた。


「どういうことだ?」


「悪魔と契約を果たす前の記憶がないのです。ただ覚えているのは、この国を創ったことだけです。元は、小さな国だったのですが、時代につれて、発展していったことに対しては、喜びを感じておりますが、ルモンドのやり方はあまりにも……」


「バーナ殿……」


「ですが、貴方方がここへ来てくださったことに、感謝しております」


 とても深く頭を下げたバーナさんを、僕は必死に止めた。


「やめてくれ。僕たちは役目を果たしただけのことだ。それに、ルキアのために動いただけだ」


「クロイ……」


「そうでしたか。ですが、心の底から感謝しているのです。これから、この国はいい方向に動いていくと思われます。わたくしは、もうここに居なくてもよいという事にもなります。ルモンドの件についても、わたくしは眼を働かせていましたから。思う存分、旅ができます。それに、クロイ様たちのお手伝いにもなるかと」


「手伝い?」


 僕は首を傾げると、バーナさんの口からある単語が、飛び出してきた。


「はい。───〈魔王〉と〈悪魔〉についてです」

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