僕とルキアさんは、シエルに言われるがままに、僕達が泊まっていた宿屋に向かった。宿屋に辿り着くと、店主のバーナさんが、僕たちを待っていた。
「お待ちしておりました。シリル君。いや、
「何故、僕の名前を……」
僕の名前を知っているのことに対し、戸惑いを隠せずにいると、バーナさんは椅子から立ち上がり、胸に手を置き、頭を下げた。
「ば、バーナさん!?」
「儂……いや、
(喋り方といい、『グローリア』って、この国の名前だよな?)
バーナさんの名前と口調に疑問を抱いていると、バーナさんは少し、苦笑いを浮かべた。
「困らせてしまい、申し訳ございません。順を追って、お話しさせていただきます」
「は、はぁ……?」
僕たちはバーナさんに促されるまま、席に着き、彼の話を聞くことになった。
「それでは、まず。
「はぁ!?」
僕は驚きのあまり、声を上げるとシエルに膝を蹴られた。
「あまり大きな声を、出さないでくれないかい? 外に漏れる。君たちの居場所を、特定されてしまうだろうから、静かにして」
「あ、はい」
シエルの言葉に、僕は大人しく頷いた。
「驚くことは当たり前でしょう。この〈グローリア帝国〉を創り上げたのも、
「それでは、先祖であろうお方が……」
「生きている理由としては、とある〈悪魔〉との、契約を果たしたからです。そして、
「でも、神経を遮断して楽なんじゃない?」
シエルはバーナさんにそう問うが、バーナさんは目を瞑り、今までのことを思い出しているかのように、首を振った。
「いえ。決して楽ではありませんよ。味覚がなければ、味もしない。美味しいという概念を失くしてしまったのと同時に、痛みを感じないと、死んでいるのではないかと、思う日々もございました」
「じゃあ、何故。悪魔と契約を果たしたんだい?」
「……それは。分かりません」
バーナさんはどこか、悲しく、辛そうにそう答えた。
「どういうことだ?」
「悪魔と契約を果たす前の記憶がないのです。ただ覚えているのは、この国を創ったことだけです。元は、小さな国だったのですが、時代につれて、発展していったことに対しては、喜びを感じておりますが、ルモンドのやり方はあまりにも……」
「バーナ殿……」
「ですが、貴方方がここへ来てくださったことに、感謝しております」
とても深く頭を下げたバーナさんを、僕は必死に止めた。
「やめてくれ。僕たちは役目を果たしただけのことだ。それに、ルキアのために動いただけだ」
「クロイ……」
「そうでしたか。ですが、心の底から感謝しているのです。これから、この国はいい方向に動いていくと思われます。
「手伝い?」
僕は首を傾げると、バーナさんの口からある単語が、飛び出してきた。
「はい。───〈魔王〉と〈悪魔〉についてです」