宿屋の店主であるバーナ・グローリアが、ルモンド王の先祖だったこと、悪魔と契約を果たし、〈不老〉になり、全ての神経を遮断されたこと。
そして、〈魔王と悪魔〉について知る人物だという事を明かされた僕たちは、彼の話を最後まで聞くことになった。
「───〈魔王〉と〈悪魔〉についてです」
「……」
(これで、確信できるものがあるはずだ)
僕は、バーナさんの話に息をのむ。本当に、〈魔王〉という存在が、この世界を脅かしているのかを。
そして、ユーベルで長年生きていた、貴族たちの理由も。
「〈魔王〉は存在しています。それも、
「三人!?」
魔王が複数人いるのを知った僕は、驚きを隠せずにいた。
「えぇ。〈失望の魔王〉。〈厄災の魔王〉。〈破戒の魔王〉が存在しています。ですが、〈失望の魔王〉の行方が分からなくなっているのです。何千年前の話ですので、もう亡くなっているというのが真実でしょう」
「〈失望の魔王〉。か……」
「〈失望の魔王〉は、この世全てに失望し、魔王へと変貌した。
〈厄災の魔王〉は、人間時代。不幸体質だった自身を、人類を憎み、人類を滅ぼすための厄災を願い、魔王に変貌した。
〈破戒の魔王〉は、自身に課された戒めを破る力を手に入れ、自分自身の戒めを全て、破戒するために魔王に変貌した。という話です」
(失望。憎しみ。戒め。人間らしい感情だな)
僕は、そう心の中で思っていると、今まで無口だったシエルが、口を挟んできた。
「それで、残りの魔王とやらは、今も生きているという事かな?」
「おそらく。確信的な証拠はありませんが、
「その言い方だと、〈魔王〉が生きている限り、〈悪魔〉も生き続けるという事になるのでは?」
ルキアさんの言う通りだ。バーナさんの言い草だと、そういう風に捉えられる。それが正解だとすれば、ユーベルでの出来事は勿論。あの貴族らも〈悪魔〉と契約していたことも事実になる。
「ルキア様の言う通り、〈魔王〉の誰か一人が生きていれば、〈悪魔〉も実在するという事になります。先ほど、
「そうか……。それで、〈魔王〉は一体何を考えているのか、分かったりするのか?」
僕はつかさず、バーナさんに問いかけるが、首を横に振るバーナさんを見て、心なしか気分が下がった。
「申し訳ありません。そこまでは、
「何故、そう思うんだい?」
シエルは、バーナさんに子供らしくない視線で問う。バーナさんはシエルに目線だけを向け、数秒だが、互いの目線だけを交合わせ、何かを感じ取ったバーナさんは、シエルにあることを尋ねてきた。
「貴女は……〈魔王〉らしき波動をお持ちなのですね。血縁、と言うべきでしょうか?」
「別に。そんなこと、
「ですね。では、貴女の質問に答えましょう。〈魔王〉は、元は人間。誰しも〈魔王〉となる権利があると思うのです。そして、〈魔王〉は、何かを望み、願い、手に入れるために〈魔王〉となる。ですので、必ずしも〈魔王〉となって、世界を脅かすことなんてありえないと、
バーナさんはそう言うと、シエルに向かって笑みを浮かべた。少し戸惑いながらも、シエルはそっぽを向いてしまった。
(シエル……。君は本当に〈魔王〉と関係があるのか?)
シエルに聞こえているだろうと思いながらも、シエルに対する疑問が、心の中で膨らんでいく一方であった。