グローリア帝国から脱出した僕たちは、新たに、ルキアとバーナさんを仲間に加え、次の目的地を目指しながら、旅を続けることとなった。
「グローリア帝国から、北に向かった方が、良いのかもしれませんね」
道中、バーナさんが突然、口を開いた。
「北か?」
「はい。北ですと、〈スノーバーグ〉という冬国が存在しておりまして、西である〈グローリア帝国〉と対立していますので、クロイ様のお名前を出すだけで、女王陛下様が、お力を貸してくださるかと」
「確か、〈グローリア帝国〉と〈スノーバーグ〉は価値観が違い、グローリア帝国は、神を信仰する国。スノーバーグは、女神を信仰する国だからな。神と女神という立場上も関係して、睨み合っているんだ。だが、ルモンドと女王陛下様の性格が真逆で、互いに嫌い合っているだけというのもあるんだが、どちらにせよ、グローリア帝国の出来事はもう、女王陛下様の耳に入っているはず」
ルキアは、竹の筒に入った水を渡しながら、僕に丁寧に説明をしてくれた。
すると、シエルが小さなため息を吐いた。
「はぁ~。あの人見知りな女王のいる国に行くのかい? しかも、〈破戒の魔王〉がいる国に」
「〈破戒の魔王〉が!?」
「一度、〈スノーバーグ〉を滅ぼしかけたんだけど、今の女王が、〈破戒の魔王〉を氷漬けにして封印したんだよ」
(そんなことがあったのか……)
「随分前の話ですが、何故それをシエル様がご存じで?」
バーナさんは、シエルにそう問い詰めると、シエルはまたも、深いため息を吐いた。
「別にいいじゃないか。そんな事よりも。本当に、あの国へ行くのかい」
「行くしかないんじゃないのか? シエル。良いか?」
「まぁ、クロイが行くなら……。あいつに会うのか~。嫌だなぁ~」
シエルは、ぶつぶつと何かを言い出し、百面相し始めた。それを見ていた僕は、頭を抱えた。
「シエル。そんなに嫌なのか?」
「嫌といえば嫌だよ。そもそもあたしは、あの女王嫌いだし。人見知りの上に、あたしだけに懐いているんだよ。本当に呆れるよ」
この言い方だと、シエルは〈スノーバーグ〉に行ったことがあるように聞こえるし。何なら、女王陛下にも会っている言い草だ。
「会ったことがあるのか?」
僕は思わず、シエルに聞いてしまったが、嫌がる素振りをせず、首を上下に振った。
「そうさ。あたし、一度〈スノーバーグ〉で、
「保護?」
「まぁ、行ってからのお楽しみさ。さて、あと三日で辿り着くと思うから、〈スノーバーグ〉での思い出を作る何かを考えたら? ルキア君も、クロイと過ごすの楽しみだろう?」
シエルはルキアに話を振ると、ルキアは少し、恥ずかしそうながらも嬉しそうに頷いた。
「意外と楽しみだと思っている。こうして、初恋相手と一緒に居られるのだから」
「それは良かった」
「クロイ~。もう少しなんか言ってあげなよ~。ねぇ~」
繋いでいる僕の手を大きく振りながら、子供のように笑うシエル。シエルの過去を知れるかもしれないと、少々気持ちを弾ませながら、〈スノーバーグ〉へ向かったのであった。