僕の過去とプリムラの兄二人の話を、シエルから明かされた後、外が騒がしいと感じ取ったルキアの後をつけて行くと、外が吹雪に覆われていたのだった。
「これは……」
「なんだい? ───ッ!! クロイ! ルキア君! そこから離れろ!!」
僕の後ろにいたシエルは、何かを感じ取ったのか大声で、僕たちを呼んだ。シエルの言葉に従い、玄関から距離を取った瞬間、吹雪の中から、赤髪の男性が姿を現した。
すると、男性の姿を見たプリムラが、動揺しながら、男性に歩み寄ろうとした。
「お兄さま……。フォードお兄さま!!」
「プリムラ待ちたまえ。君、人間でいることを辞めたね?」
シエルは突然、プリムラの一番上の兄であろう、フォードに問いかける。その問いにフォードは、不気味な笑みを浮かべた。
「ついに言葉も話せなくなったかい」
「フォードお兄さま…。どうしてなのですか。どうしてっ!」
プリムラの悲痛な心の叫びが、この場に響き渡る。
「……」
彼女の心の叫びを耳にしてもなお、フォードは不気味な笑みを浮かべたまま立っているだけ。
「プリムラ様。
バーナさんが、プリムラの目の前に立つと、フォードが氷剣を作り出し、バーナさんに向かって振り回し始めた。氷剣を素手で受け止めたバーナさんは、一瞬で氷剣を握りつぶした。
「一瞬で……しかも、素手で受け止めるのか」
「おそらく、フォードに合っていないんだよ。氷属性というものがね」
シエルはそう言うと、フォードを止めているバーナさんの前に立ち、フォードの腹部に手を当て、呪文を唱えた。
「
すると、段々と吹雪は止んでいき、フォードの魔力も抑え込まれていくのが感じ取れた。そして、倒れ込むフォードにプリムラが駆け寄り、身体を支え、その場にあった椅子に座らせた。
「フォードお兄さま……」
「プリムラ様。失礼いたします」
バーナさんはプリムラに一言断りを入れ、フォードの首に手を当てた。
「呼吸は正常。ですが……」
フォードの顔を見たバーナさんは、何やら難しい表情で、プリムラに対し言葉を選んでいるようにも見える。
(死んではいないようだが、目覚めるのに時間がかかるパターンか?)
僕は、心の中でシエルに語り掛けた。案の定、シエルは僕に目線を向け、小さく頷いた。
(それなら、普通に言えばいいのでは?)
「無理さ。外を見てみたまえ」
シエルに促されるまま、外に顔を出すと、吹雪によって凍らされた街の様子が目に飛び込み、人々も凍り付いていた。
「フォードのせい。まぁ、操っていたカミュが真犯人だけど、前回同様、カミュの封印も解かれたようだし、〈スノーバーグ〉は壊滅状態といっても過言ではない。精神世界で魔力を使い込んでしまったあたしのせいで、封印を解かれたことに気づかなかった。ただの言い訳にしかならないけどね」
(精神世界で、魔法を撃った時か。そうなる前に、極力避けなければな)
「その通りさ。君との
「仮契約じゃなければいいのか?」
疑問に思った僕は、シエルに問う。するとシエルは、子供のような笑みを僕に向けた。
「そうだとも。正式にあたしの契約者となれば、魔力制限をしなくて済むし、あたしの魔力を君に受け流すこともできる。そうすれば、共同魔法を撃つ回数も増えるし」
「なるほどな」
「正式に契約したいのであれば、時の水晶に触れ、自身の記憶を取り戻し、あたしと己自身を受け入れる〈覚悟〉が必要になる。だから、まずは記憶を取り戻すことからだね!」
「あぁ。それで、プリムラにはどう説明するのが一番なんだ?」
(どのみち、この現状を受け入れるしかない)
そう思っていると、バーナさんが俯くプリムラに語り掛けた。
「プリムラ様。フォード様は、〈破戒の魔王〉に操られていたのは事実です。そして、この〈スノーバーグ〉の現状。人々は凍り付き、無人化しております。ですが、落ち込んでいる場合などございません。シエル様が先程おっしゃっていた通り、〈雨の魔女〉が復活するのはまだ先かもしれませんが、〈破戒の魔王〉の封印が解かれてしまった今、その時間は限られてきております。ですので、〈スノーバーグ〉の
「それは……」
「女王陛下という立場である貴女様に、無礼承知ではございます。〈スノーバーグ〉を統べる者が、この場に留らないという事は、地位を放棄したという扱いになってしまうかもしれないと。ですが、〈雨の魔女〉を放っておくこと自体、よろしくないと、
(バーナさんの言う通り、僕の母親をどうにかしなければ、全て解決しない。だが、プリムラは地位を放棄するわけにもいかない)
二人の会話を慎重に見守る僕たち。緊張が駆け巡る中、ついにプリムラが言葉を発した。
「地位は勿論。放棄することはありませんよ。それに、世界を救う事にも否定しません。シエルちゃんのため、この国の為にも、私はクロイ様にお力をお貸しします。〈破戒の魔王〉にもう一度会い、フォードお兄さまの眠りを解く方法を聞き出します。ついでに、女王という立場を忘れて、一発殴らないときがすみませんから」
そう言うプリムラの目には、涙が浮かんでいた。そんなプリムラをバーナさんが、父親の様に優しく抱きしめたのであった。