荷台に六人の男がいた。一から六まで、胸に番号が確認できた。
男は紺色の作業衣に袖を通した。尿が漏れたジーンズを脱ぐと、何人かが目を逸らした。
一人の若者が頭を抱えていた。無理に乗ったに違いなかった。マスクをしている。両親に何か伝えようとしているようだ。
「大丈夫か」
男は言った。
「こいつ、下着盗んだって」
別の男の声だった。
「即効ばれて乗ったわけ。あの村じゃ噂が早いもの」
男はタイヤの音に耳を澄ませた。どこを走っているか不明だった。
やがてトラックは止まった。荷台の扉が開くと、聞き慣れない鳥の鳴き声が飛び込んできた。町の騒めきからは程遠い。深い谷底から風が吹き上げ、作業着を揺らした。
男たちは砂利道の上で立ち往生していた。噂など瞬時に広まる。下着を盗むと、翌日には自宅前にトラックが駆けつける。村の大人は窓から盗人の様子を覗き見し、ほくそ笑むという。山への連行は日常だった。闇組織が手を引いていた。盗人はもちろん、身を隠した逃亡犯、年寄りを狙う都会からの詐欺師を含めて、どんな悪党の名も筒抜けだった。
住人の手による情報網は、ここ四十年あまり変化はない。どの住宅にもギャングへの窓口があり、いかなる犯罪も許されなかった。一網打尽とは小さな村のためにあるようだ。
「誰が何をしたか瞬時にわかる。だから子供たちは減ってる。都会で息を殺した方がマシって感じじゃねえの」
男は身震いした。自分の腕を引っ張り上げたあの男も、通報を受けたに違いなかった。
「倉庫なんだけどよ、ちょっと厳しいところだぜ。覚悟しなよ」
「……塔じゃないのか」
「違うよ。塔までは倉庫を通過しなきゃいけねえの。まして俺たち囚人は簡単に通れないんだよ」
「何をするんだ。ひどい労働じゃないだろうな」
「あのね、あんたの臆病に付き合ってられねえの。黙って行きゃいいんだよ」
「お前、そんな機械みたいでいいのか? 俺たちは血が通ってるんだ。人なんだよ」
「だから何だ。動物がこんなにしゃべるかよ」
「そうじゃない。人らしくと言ったつもりなんだ。いつの時代の労働だ。トラックに詰め込まれるなんてあんまりだ」
「すぐには帰れないんだよ、おっさん。今じゃギャング以外立ち寄れなくなってる。村の連中はいい気なもんだよな。抜け殻は銭にならねえから」
その時、男の声が飛んだ。
「こっちだ」
建物の扉が開いている。男が一人、佇んでいた。
倉庫内は裸電球が点々と続いていた。一個の間隔がやたら広く、次の球を望むように設置している。男たちは列を乱すことなく歩いた。視界にぼんやりと電球が当たっては暗闇へ戻る。もちろん会話もなく、聞こえるのは乾いた足音のみだった。一番から十二番、先頭に立つ監視の男に続いている。胸元の番号のみが目立っていた。
「監視のバカヤロー」
最後列から罵声が飛んだ。
一同の足は変わらず前へと進んでいた。
「止まれ」
監視が言った。
「七番です。七番が言いました」
誰かの声が飛んだ。しんがりの男だった。
監視は睨みつけた。急に押し黙った若者を見ると、もう一度同じ言葉を出した。
「誰だ。誰が言った? 答えないと先には進めないぞ」
「七番です」
同じ声だった。その瞬間、監視の靴底が男の腹に食い込んだ。
他の男たちは倉庫の奥へと進んだ。監視の様子を見て顔色一つ変えず歩き去った。
冷たい床に七番は蹲った。激痛に声を殺している。図ったように電球の光が降りていた。
「お前が言ったのか」
七番は辛うじて「はい」と言った。監視は七番を起こすと、意外にも頬を緩めた。
「悪かった。みんなと先へ行くがいい」
そして肩に手をまわし、共に歩き始めた。
白い電球の明かりが続いていた。
「監視」
「何だ」
「……どうして、俺を助けるんです?」
「こんなところで何を聞いてるんだ。お前たちを面接に運ぶのが俺の仕事なんだよ。だが靴底はいつも出すようにはしている。それが掟だ」
「選ばれてはいませんよ、とても」
「なぜだ。あの村からだろう。上の者からすべて聞いている」
「確かに俺は妻を殴りました。原型がなくなるくらい。ゴムの塊くらい」
「それを話すために来たんだろう。違うか」
男は口を閉じた。
廊下の先に鉄扉が構えている。〈めんせつ、こちら〉と赤い文字がある。