塔に向かう遥か前、ジローはトラックの荷台に揺れていた。ポケットに手を突っ込む。作業衣には何も入っていない。K地区でどのようにミノルと話すのか、ジローは考えた。
一番が塔の入口付近で佇んでいる。監視は帰った。何をするか、何を始めるか、一切の説明を聞いていなかった。十二番までは、男たちと黙り込む以外はない。
「塔まで来ちまったな」
男の一人が言った。
「みんな、こんな話聞きたくねえけどよ。この辺りで昔から何人も死んでる。ばあさんの代からさ」
「すみません。詳しく、お願いできますか。俺、最後なんです。塔について知らないので」
男はジローを見て笑った。
「お前みたいな人間、少ないよな。あっちの村じゃ、塔の話なんかみんなしたくねえんだよ。馬鹿みたいに人件費かけて建ってんだ。遠くから見りゃただの鉛筆なのによ」
「何を書くんでしょう。まさか漢字ドリルとか」
「いい線だ。地道以外に選択はねえよ。気も狂わんばかりにな」
「俺、一番とこの区域を目指したんです。だから後戻りはできません」
「あんた、さっき下着泥って聞いたぜ。ほんとかよ」
「ええ。ミノルさんが仕組んでくれました。ここまで来るために」
「……お前ら、ギャングとどんな関係なんだよ」
ある男の背を見た記憶。ジローは少年時代を話した。
「魚籠、と名前だけは覚えているんです」
「豹には伝えたんだよな」
「ええ。一番が」
「なるほど。それで団員みんな平常運転だったわけだ。いや、これ言うと黙れって飛んでくるけどよ」
「広場で穴を掘ってる人たちですね。見たことあります」
「実はよ、あんたいい度胸してるから言うけど。あそこの団員、あの塔から給与もらってんだ。雀の涙程度な」
塔は黄金に染まっていた。
「十二番目は辛いぞ。しんがりだからな」
男はジローの元を去った。
塔を訪れた青年は、最初に黒服の男と出会っていた。
「昼まで待ってくれ」
青年は不安を隠そうとしていない。
「正午から作業を開始する。お前たちはその力があるかどうかを向こうの倉庫で測っていたのさ。我々は忍耐と正確性以外、求めていない。十二人いれば捗ること、円滑に進むこと。すべては村への還元だ」
「すみません、質問」
「何だ」
「十二番まで続くんでしょうか。念のため、それ聞きたくて」
「お前だけじゃない。安心していい」
「どういうことでしょう。合流できるんでしょうか」
「それは陽の光次第だ。こっちへ来い」
男は窓際に向かった。眼下に白い屋根の大きな建物が見える。
「あれがシェルターだ。ミノルはこの間まで子供たちの面倒を見ていたんだ。お前も聞いていると思うが。私たちはここK地区の管理、保護を担っている。元は村の住人が近寄らなくなったために、うちの親分が引き受けたんだ。親分はミノルと盃を下ろしている。だからこの地区は迂闊に立ち寄れない。幹部以外はな」
「ミノルさんに連絡するはずだったんです。でも手段がなくて」
「仕事が終わってからでいい。こんな言い方は月並みだが」
「でも塔に着いたら連絡よこせって」
「それはあいつなりに気遣ってるだけだ。我々はゲストを路頭に迷わせない掟がある」
「……ジローを待ちます。何時間でも」
「その心意気は買う。だが一番は最も過酷だぞ。その意味を、正午には確認できる」
「……質問、よろしいですか」
「何だ」
「……ここは、何階ですか。俺、ずっと階段を駆け上がっていましたが」
「十二階に来て何をほざいてる。君は今から一人で降りるんだ。互いに友情を覚えるなら、この作業も苦にはならない。頼んだぞ」
男は階段を上がっていった。乾いた靴音が次第に消えた。