翌日から、私は碧玉宮に居ながらにして武官の格好になりほぼ皇妃様の宮に詰めることとなった。
私が休んだ後、これはチャンスと思ったほかの貴妃がこぞって皇妃様に刺客を放ち、
気づいていたけれど、お兄様でなんとでもなる相手と見て私はそのままにしていたのだけれど。
起きて早々にお兄様は私に言うのだった。
「気づいていただろうに、絶対助ける気なかったよね?
そんなお兄様に私はニッコリと朝のお茶を頂きながら返事をする。
「昨夜の襲撃位は武官で片づけてくれなきゃ困るわ。私は皇妃様を一身に守るための専属護衛。御身の一番側で控えるからこそ、最後の砦のようなものなのよ?」
私の言葉にはさすがにお兄様も納得しているため、反論は無かったけれど不満はありますってお顔をしていたので、私はくすっと笑って言った。
「でも、私の代わりで
そう、私の侍女としてついてきた舜娘はお兄様よりも少し年上で、私たち兄妹と共に育った。
劉家流の子育ての中で育った舜娘は、私やお兄様には劣るものの立派に武門の家に仕える者として一通りの武器体術を扱える。
そして昨夜は夜目も強い舜娘が、あちこちに潜む者を弓で仕留めて回ったのである。
そのため私の身支度を手伝った後、舜娘には休みを与えているところである。
夜頑張ったのだから、休まないと体に悪い。
人間、睡眠を削ると良いことはないので、眠れるときに寝るのが劉家の鉄則だ。
「そりゃ、舜娘は弓の名手だから助かったけれど。危うく、うちの若手が巻き込まれそうに……」
そんなお兄様の言葉に私はニコッと笑って言う。
「若手、育てがいのある子たちが沢山いそうね。さ、劉家の鍛錬法の出番かしら」
にこにこと、お兄様とお揃いの武官服で私は碧玉宮の近くの鍛錬場に赴く。
そこでは武官の早朝訓練が実施されており、私はその動きを見て改善点が多いことに頭を抱えた。
「基礎すら危うい若手ばかりじゃないの。これでは皇妃様の守りが厳しいはずで、私が呼ばれるわけだわ」
まだまだ腰が引けている者や、体幹が維持できない者ばかり。
三十人を相手取っても、このレベルの集団なら私が圧勝してしまうレベルである。
「お兄様、これは育成怠慢ではなくって?」
私は思わず凄んでしまうが、お兄様は慣れているからちっとも効き目がない。
しかし、鍛錬場の若手で感覚の鋭いものは私の凄んだ覇気に気づいたらしい。
多少は使えそうなのもいるみたいだけれど、全体的にレベルが低すぎて驚いた。
「ここは、最近は入ったものが多い区画だからな。ベテランはそこまで多くないから監視のためにも各貴妃の宮に配置するしかなくて。この状態だ。だから梓涵が呼ばれたともいえる」
お兄様の言葉に深くて長いため息を吐いた私は、鍛錬場の武官たちに声をかけた。
「私は、碧玉宮に来た劉貴妃である。本日より、劉家仕込みの鍛錬を課すので這いつくばっても付いてきて己が技量を磨くように」
私の言葉に、武官たちは素直なものは頷いて簡易礼を取り答えたが一部はだいぶ態度が悪い。
「は、劉家の出とは言え姫だろう?俺たちを鍛錬させるなんて、無理に決まって……」
口答えする武官の背後に立ち、私は忍ばせていた短剣をしっかり突き付けてあげる。
「この距離まで来られて反応できない時点で、私の相手にもならないけれど。それでも、まだなにかあるかしら?」
力はないけれど態度の悪い武官は少しいいところのお坊ちゃんだろうことは分かっていて、あえての挑発行動。
やはり、彼は私の挑発に乗って近くの同じようなタイプの武官たちと束になって私に攻撃を仕掛けてくるが……
私は短剣を素早く戻すと、組み立て式棍棒に切り替えて迫りくる武官を一閃に弾き飛ばす。
五人で一気に迫ったが、私の棍棒のまえではその人数でも相手にはならない。
場面と場合で武器を使い分けて戦うのが劉家の技。
おかげで一番得意な武器というのは誰しもあるが、劉家で戦い方を習うと基本ほぼどんな武器も扱えるようになって一人前とされるのだ。
そして、己の戦い方や戦法を身につけて最低でも五種類は常に武器を身につけているのが劉家の本流である。
そんな劉家の中では私はさらに特出して武器を常時十種類は忍ばせている。
髪のかんざし、髪結いの紐、短剣に組み立て式棍棒、針投げ、指輪に仕込まれた針、腕輪に仕込まれた針、足にも短剣があるし、腰には短い作りの弓矢、などなど仕込んでいるので接近戦から遠距離戦まで対応可能な万全の状態で過ごしている。
私はここに皇妃様の護衛として来ているのだから、万全を常に期さねばならない。
こんな基礎のままならぬ若手武官にやられていては、護衛など務まらない。
しかし、私が結婚するためには皇宮と後宮の守りも強化しなくてはならない。
だから、私はこの若手を劉家の私兵団レベルに鍛え上げると決めている。
すべては一貫して、自身の結婚への道を突き進むためである。
吹っ飛ばした武官たちは一様に驚いた表情で私を見ている。
女性である私に吹き飛ばされたのがまだ理解しきれていない様子で、私はニッコリと微笑んだ。
「大丈夫よ。今は吹き飛ばされたけれど私の鍛錬メニューを半年もこなせば、立派な武官になれるわ。でも、今のままでは私に勝つことはずっとできない。さぁ、どうする?」
私の問いかけに、武官たちは顔を見合わせると一同揃って気持ちが切り替わったらしい。
私に頭を下げて、一気に素直になる。
「劉貴妃様、どうか我々を強くしてください。自分たちは男だから、女性より強いと自分のことを過信していました。それは間違いでした。劉貴妃様のように、どんな武器でも戦うことのできる武官になりたいのです」
良い覚悟ね、其れなら希望通り。しっかり育てて見せましょう?
劉家の私兵団がさらに強くなったように、基礎からしっかり叩き込んであげましょう。
「そうね。まずはこの鍛錬場三十周からスタートしましょうか? 武官の基礎は体力ですからね」
こうして後宮二日目から武官の鍛錬計画をスタートさせた。