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第11話 刺客祭りの限界点

 どんな事件があったとしても、後宮では表向きは華やかに裏では数々の嫌がらせや陰謀が渦巻いていても表面上は穏やかなように過ぎていく。


星宇シンユー兄さまから聞いてはいたけれど、ここまで満員御礼の刺客は正直いい加減にしてほしいし、私と星宇兄さまと舜娘ジュニャンの睡眠への犠牲がいい加減我慢の限界よ?」


 私の呟きには、だんだん化粧ではクマが隠しきれなくなってきた舜娘も同意を示したうえで、お茶を入れながら言う。


「えぇ、えぇ。一番若い梓涵ズハン様ですら疲労が隠せないのですから……。劉家の私兵団も大変頑張ってくれていますが、それでもここまでの刺客の数は正直異常でしかありません。欣怡シンイー様がこれまでこの数の刺客を向けられていたならば、よくぞご無事であったというよりほかにありませんね」


 まったくもってその通り。


 欣怡様が無事だったのは龍安ロンアン様と星宇兄さまの二枚岩での守りがあったからに外ならず、その二人が疲弊し始めたからこそ私が呼ばれたとも言える。


「ここに来て、一か月と少し。そろそろ貴妃の擬態を解いて武官の格好で過ごしても良いと思わない? 私が劉家の武闘姫なのは、結構有名なのだし? そろそろ公で刺客を返り討ちにして無意味だってことを分からせてみるのも一つの手だと思うのよ?」


 私の言葉に、舜娘も一計の間を開けたが頷いて、同意を示した。


「星宇様や陛下にも意見を聞かねばなりませんが、たしかにそちら試してみる価値は大いにあるかと思います。武官の訓練場など、ほかの貴妃はご覧になりませんから、お嬢様の本来のお姿は隠されたままです。ぱっと見だけは良家で愛され育った麗しい姫にしか見えませんから。それゆえに刺客送り放題なのかもしれませんし。無意味と分かれば止むかもしれませんからね、お客様も」


 そんな舜娘との話し合いののち、部屋に今後のための話し合いに来た星宇兄さまと浩然ハオラン様に相談した。


 本日は欣怡様との公務での皇都視察のため、龍安様は不在だった。


「さすがに劉家の私兵団の一週間の派遣は、他の貴妃からもいろいろ意見が出てくると思うのよ。私兵団を入れるなんて謀反を企んでいるのでは? とかね。私が劉家の武闘姫なのは、この後宮に居ても聞いていたと思うのよ。でも、現在の私は見た目からは戦えそうにない普通の貴妃じゃない? だから侮られて刺客祭りになっているのでは? と言うのが私と舜娘の意見。だから、思いっきり公で刺客を撃退しちゃえば、刺客を送るのが無意味だと思うのではないか?と言うのが舜娘と話した結果なのだけれど。どうかしら?」


 私の言葉に、連日一緒に刺客祭り参加の星宇兄さまは確かにと言った顔をする。


 浩然様は、考えている様子でまだ表情にそれほど出てはいない。


「確かに、梓涵様の意見は一理ありますが。もっと手練れの刺客が送られてくる可能性もりますよ?」


「それは確かにそうだけれど、手練れの刺客がそんなに複数いるとも思えないのよね。それなら数打てば当たるというように数で物を言わせても、私がぴんぴんしている時点で手練れを投入しそうなものでしょう? だから、私としても今回の案を採用して、少しでも睡眠時間の確保を検討したいの」


 私の返事に浩然様は、一つ頷いて言った。


「そうですね。確かにやってみるほうが現状を変えられるかもしれません。しかし、龍安様に判断を仰いでからになりますので早くても明日からになるでしょう事をご承知おきくださいね」


 そんな一言で、明日から実施できそうなことにホッとしたものの今夜もお客様の相手があると思うとげんなりする舜娘と私なのだった。


 いい加減、朝まで一度くらいぐっすり寝たいものだわとこの一月ほどの生活にぼやく心が止められないのだった。


 きっと星宇兄さまと舜娘も同じだと思う。


 私たちは今夜を超えれば打開できるはずと言う気持ちで一致団結し、いつもよりやや刺客に対して当たり気味にその夜のお客様をお迎えして撃退したのだった。


 後日、その場からなんとか逃げ出した刺客はのちに語ったという。


 劉家の兄妹も私兵団も、何ならその侍女に至るまで敵に回しちゃなんねぇ。あいつら、ほぼバケモンだから……。


 そんな話が、裏界隈で流れることは知らないままに私も舜娘も星宇兄さまもガッツガッツこの一か月近いお客様のお相手のうっ憤を晴らすかの如く暴れました。


 一緒にお迎えしていた私兵団のベテラン格の浮柳フェロウは言った。


「お嬢と坊ちゃんが壊れるとここまでになるのだから、人間睡眠は大事なのだと思ったよ。私兵団でも睡眠を削る訓練は、考えて実施するわ」


 とのことでした。


 確かに訓練だと最高は五夜連続訓練までだから。そのあたりでも、人によっては幻覚、幻聴に苛まれたりするから難しいところなのよ?


 でも、国境境を守る時にはそれほど戦いが続くことも想定しなければいけないし、皇都からの応援が最速で到着までを見込んでもこの訓練の年一回の実施は欠かせないと思う。


 それで、ローテーションでしっかり休むことの大切さも身に染みて学ぶし、そうならないうちに撃退できるように普段からの訓練で強くなれるようにいつも頑張るようになるのだ。


 それがね、五夜どころかほぼ一か月ではね……。


 ずっと仮眠よ?日々三時間睡眠で一か月お過ごしくださいませ?


 睡眠の大切さが骨身に染みるわ……。


 乳母だって赤子の世話は数人で回して睡眠するものだと露露ルールーだって言っていたわ。


 城下町のお母様方もご近所でお手伝いして、お母さんが倒れないようにしているのだと聞いたわ。


 つまり、現状私たち三人は赤子の世話を一人で一か月しているようなものだと考えれば過酷なのは言うまでもないと思う。


「世間のお母様方は産まれて数か月の赤子の世話はそりゃあ一人ではきつくって、協力するようになるわよね。経験者こそよくわかるものだし、子育ての協力体制が城下町には根付いているのも納得だわ」


「そうですね。寝られないとこんなにしんどいのだということは、ここに来て学びましたね」


 本当、後宮ってすごいところですわと舜娘がしみじみと言うのに同意しかないのだった。



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