そうして翌日、
今日は欣怡様との定例お茶会の日なのだ。
金華宮への移動中、またもや黄妃とその侍女たちと遭遇した。
「まぁ、ややみすぼらしくありません事? 同じ貴妃として恥ずかしいですわ」
私の装いがやや簡素であることを見越して、これ見よがしに言ってくれるがこの衣装は絹道から来た高級な絹生地なのだが、どうやら黄妃には見目からの価値しか伝わらないようである。
やはり、残念極まりない黄妃なのだがそちらの侍女一名。私への刺客のようですが、殺気が隠せていない。
全然低レベルなので、思わず苦笑をこぼすとそんな私の態度が癇に障ったらしく黄妃が手持ちの扇子で殴り掛かってきた。
なので、しっかりその腕掴んで捻り上げてその首筋に簪を突きつけてあげる。
「黄妃さま?!」
叫び近寄ろうとする殺気を隠さない侍女に笑顔で一言。
「ねぇ、先に殴ろうとしたのはどちらか見ていたわよね? そこの侍女、答えなさい」
殺気立つ刺客の侍女の後ろにいる、本当の侍女だろう娘に声をかける。
「黄貴妃様でございます。劉貴妃様はそれに対処したにすぎませぬ」
頭を下げて、そう話す侍女に殺気立った侍女は苦いものを食べたときのような渋い顔をしている。
「離せ! 大したことない、劉家の小娘の癖に!」
なんて抑えられた黄妃が、そんなお声を出すのだから笑ってしまう。
「ふふ、ただの小娘を殴ろうとして止められるのだから、あなたはその小娘以下でしょうに。私がどこの娘かお忘れなの? 劉家の武闘姫の名前は飾りではないの。私は戦える娘ですので」
そう話しながら、殺気を隠していない侍女はここに来てようやく不利を悟った様子で後ずさる姿勢を見せたが逃すわけがない。
「しかも、堂々と殺気を隠さない刺客を侍女として連れ歩くなんて謀反の意志ありと見なされてもおかしくなくってよ? ねぇ、侍女さん?」
話しかけるとほぼ同時に、裳裾を縫い留めるように投げナイフを投げつけて見事足止め成功。
「逃げられると思わないで。 劉家私兵団の今の強さがどこから来ているか知っていて? 五年前から私が訓練メニューと訓練指導を始めたからよ。そんな相手をどうにかしようだなんてえらく強気に出たものね?」
フフっと声だけ聴けばお淑やかなのに、その行動は隙のない武人そのものだったと
「さすが、うちのお嬢様です」だそうな。
金華宮に近い場所でこんな騒動を起こしたので、流石に皇妃のための護衛の二名が様子見に来てくれて事情を説明。
黄妃側の侍女と私の侍女と話に齟齬が無かったことから、その日の夕方には黄妃は自身の宮の月下宮で一月蟄居することと陛下に沙汰を下されていた。
「お騒がせしまして、申し訳ありません。
挨拶をして、ニコッと微笑めば欣怡様も微笑んで答えてくれた。
「無事にたどり着いて良かったわね。
そんな欣怡様の問いかけには、武官の立拝で是と応える。
「もう、せっかく貴妃として後宮に来たからにはたくさん着飾らせて遊ぼうと思っていたのよ? 妹は可愛がるものでしょう?」
欣怡様の一言には自分には下の兄弟が居ないので分からず、首をかしげてしまったが舜娘は分かるのか頷いていた。
「兄さまには、武芸で可愛がられた記憶しかないので、姉妹の可愛がるは想像がつきません」
私の素直な一言に、欣怡様の深いため息が室内に吐き出された。
「まったく
欣怡様はそれでも微笑みながら言う。
「梓涵が来てくれたことは、正直守りが強固になるので安心ではあるのです。でも、そのために梓涵の嫁入りが遅れてはと心配しています。浩然は全然、梓涵の気持ちに気づいていないしねぇ」
やれやれと言った感じで、話し出した欣怡様に私はピタッと止まって恐る恐るお顔を見つめて聞いた。
「私、そんなに分かりやすいでしょうか?」
私の問いかけに、欣怡様はにこやかに答えた。
「だって、陛下を挟んで私と星宇と浩然は幼馴染で、そこに梓涵も一緒することがあったでしょう? その時、いつも梓涵の視線の先は陛下ではなく浩然へ向かっていたもの。見ていたら分かるわ。わかっていたのは私と陛下くらいだけれどね」
にこにこと暴露されて、私はいたたまれなさに小さくなりたくて肩をすぼめた。
「だから、昔陛下はあんな約束を口にしたのですね?」
私の問いに、頷いて微笑んだ欣怡様。
「えぇ。このままでは浩然が梓涵の気持ちに気づくのは難しく、変に
可愛いのだから仕方ないわって、欣怡様は言いながら女官長に笑いかける。
「確かに、劉貴妃様は皆様の妹分でございますから、致し方ございませんね。陛下もその昔、言っておりました。星宇はずるい、我にも妹がいればよかったのにと」
そんな昔話に花を咲かせつつ、綺麗に咲き誇る池を眺めながらののどかなお茶会はつつがなくお開きを迎えるのだった。