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第24話

 武官さんたちの訓練に、口だけで参加を余儀なくされた私。

 それこそ、今日動かないことで武官さんたちには衝撃が走った様子。

 いつも武官さんたちと同等かそれ以上の運動量で訓練をこなし、相手をして稽古をつける私が見て指示を出すだけなのだから。

「劉貴妃様、なにかあったのですか?」

 そんな問いかけをしてきたのは、最初に吹っ飛ばした坊ちゃん武官の羅乎だった。

「ちょっと金華宮の警護中にヘマしてね。利き腕ではないけれど、ちょっとかすり傷が出来たから舜娘から安静命令が出ちゃったのよ」

 私が肩をすくめながら言えば、控えていた舜娘当然ですって顔で頷いているのだ。

「うちのお嬢様は、利き腕ではないほうのケガだからと普通に皆様の鍛錬に参加する気でした。麻痺と中速度の死ぬような毒を塗り込めた短剣が掠ったんですから今日くらい休むべきです」

 きりっと異論は認めないの勢いで、舜娘は言い放つと羅乎は同意とばかりに頷いているのだ。

「この中では一番強い劉貴妃様が、傷を負ったのですから。それは相当な腕の者が相手だったということでしょう? 解毒はされたみたいですが、今日は無理なさらないほうが良いでしょう」

 至極まっとうな意見なので、反論することも出来ず。

 大人しく鍛錬場で見守りながら、各々の動きの改善点を伝えて鍛錬の指示を出し、メニューを伝えていく。

 みんな私の指示で自身の成長が実感できるようになってから、私の指示には素直に従い鍛錬を重ねていく。

 ぐんぐん伸びるのは若さゆえか素直さか。

 多分両方だろうな。

 今年の若手武官たちはきっと十年後ぐらいには、最強の年代と言われるのではないかと思えるほどに成長しているから。

 このまま若手武官たちが育ち、このメンバーが全員現場に就くようになれば私のお役目も解放されるのではないかと言うこと。

 少し道筋が見えてきた気がした、私が無事に浩然様に嫁げるようになる道筋が。

 でも、そのためだけではなくて。

 この先の龍安様と欣怡様、そのお子様達が健やかに暮らせるようになるためには武官たちが強くたくましく、皇帝一家を守ってくれなけばならないから。

 その一助を担えるなら、婚期の二年くらいどうということも無い。

 だって、龍安様も欣怡様も私にとっては星宇兄さまと同じくらい大切な兄であり姉であるから。

 そんな二人の治世が、安泰に末永く続くための一歩を作るならば。

 喜んで、捧げようではないか。乙女の二年。

 高く高く、つくんですからね! きちんと浩然様に嫁げるようにしてください。

 そんなたくさんの想いを抱えつつ、今日も武官と諜報部の若手育成に取り組みます。

 猫猫鈴もだいぶ諜報のための動きが身につき、後宮内での諜報活動を一手に引き受けている。

 最近は各宮での情報を集めては清に挙げており、その情報がしっかり浩然様に届いている。

     捕まった刺客や暗殺者も私が提供しているお喋りのお薬で証拠も稼げている様子。

 それでも、決め手に欠けているからかまだまだ貴妃は後宮から去る様子はない。

 ただ、そろそろ誰かは後宮から去るのではないかとは思っている。

 これまでにかかわりが無いのは周貴妃くらいなので、それ以外の貴妃の誰かが今後の動き次第で後宮から去ることになるのではと。

 まぁ態度も悪いし、いろいろやっているのは張貴妃と黄貴妃だけれど。

 胡貴妃に関しても怪しいが、彼女が一番尻尾を掴ませないタイプなので厄介かなと思う。

さてさて、どうしたものか。

 決め手の一手が欲しいところだなと、思いながら猫鈴の鍛錬メニューを伝えていると猫鈴が言った。

「梓涵様、最近黄貴妃が怪しいのです。お気をつけください。皇妃様はもちろん、皇妃様を守る梓涵様のことも邪魔だと露骨に話しているのを聞いていますので」

 さすが諜報部で最近後宮の各宮を回っているだけある。

「怪しい動きがあり次第、長に話してすぐに梓涵様の方へもお知らせするよう進言しておりますので」

 ここ最近で、一気に話し方も成長したね。

 妹分の成長が嬉しいような、寂しいような。

 そんな、急いで大人にならなくても良いのよと言いたくなる。

 こんなにいろいろ張り込みもして、諜報活動も立派にこなしているけれど猫鈴はまだ十三歳!十三歳の女の子なのだから。

「ねぇ、舜娘。私は猫鈴の女の子としての幸せについても考えたいのだけれど」

 私の言葉に舜娘は一言。

「引き抜けるなら、この護衛の終わりに陛下にご褒美に猫鈴頂戴して梓涵様の侍女になさればよろしいかと」

 なるほど、その手があったか! ポンと左手に右手の拳を載せて納得していると鍛錬場にきた浩然様に言われた。

「それくらいのことだったら、警護の後と言うことを鑑みても叶うと思いますよ。今諜報部で仕事してくれていますが、彼女の忠誠はやや両陛下を通り越して梓涵様の方を向いている感が否めませんので」

 くッとモノクルを治しつつ言った浩然様に、当の本人の猫鈴が同意している。

「うん。私の師匠で仕えたい相手は梓涵様だから。両陛下と梓涵様が並んで仕事してほしいって言ったら私は梓涵様の方優先するって決めてるくらいには梓涵様一筋です」

 きりっとした表情で言っているけれど、それではダメです。

 あなたは今陛下に仕える諜報部のメンバーなのだから。

 そして怖いもの知らずの猫鈴は一言言った。

「陛下にも陛下より私は梓涵様優先ですよ?って言ったら陛下笑って良いよって言いました!」

 そんな報告に脱力しつつも陛下の返事を訊ねる。

「だって、梓涵を優先するならおのずと欣怡を優先する梓涵をみて行動するだろう?それは欣怡のためになるから。それで欣怡と梓涵が守られるなら問題ないって言っていました」

 あっけらかんと言い切った猫鈴は大変な強者である。主に精神面で。

 そんな猫鈴は浩然様に下賜されるとき、一緒に連れて行こうと決心した日になったのだった。


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