夏が過ぎ、秋の気配が入り始めるころには地方に行っていた貴族たちも帰って来るので皇宮にて秋の祭りが開かれる。
皇都やその近くの農家が収穫の時期を迎え、無事に実りを得たことへの感謝祭である。
豊穣を祝う祭りは、夏に花火が上がるだけの夏の宵祭りとは異なり城下に様々な商人が訪れ盛大に市を開いての祭りになる。
その時期の民は着飾って街に繰り出し祭りを楽しむのが定番だ。
私も去年までは舜娘と一緒に皇都の街に繰り出して、祭りを存分に楽しんでした。
「感謝祭の季節が来たのね。暑さもマシになったし、お父様も戻って来たし。後宮も少しは落ち着けばいいのだけれど」
金華宮の警備体制は昼間は武官に、夜は諜報部にと振り分けられて現在は私の出番は週三日ほどである。
国境付近が落ち着いたのをめどに劉家の私兵団と共に国境を守っていた皇宮師団のベテラン勢が皇都に帰還したのも大きかった。
黄国には、黄貴妃が盛大にやらかしていて返品ずるぞ、こら!と言ってやると国境付近が大人しくなったそう。
ベテラン勢の半分はまだ国境付近に残っているが、半数が戻ってくれば後宮の警備も手厚くなるというもの。
おかげで、私はお休みが増えました。
その間に若手武官と諜報部の若手を一気に育て上げる算段で、ビシビシと扱いています。
鍛錬は裏切らない、日々の鍛錬こそいざという時の動きに繋がる大切なものとして日々鍛錬強化を図っている。
「梓涵様、猫鈴はコレを覚えました!」
そんなセリフと共に、練習台の藁人形の首にあたる部分を鉈でスパーンと切り飛ばして見せた。
「うん、とってもいい太刀筋だわ。上手になったわね、猫鈴。ただし、実物の人間はこんなに簡単にスパーンと飛ばないからね?それだけは忘れちゃダメよ?」
私の言葉に素直に猫鈴は頷いた。
「はい、実物の時は確実に仕留めるために切り飛ばすのではなく、差し込めばいいのですよね?」
その通りである。
諜報部の若手に関しては、実戦での役立つ人体の弱点などをしっかり図解付きで教えた。
そのおかげで彼らは関節や大事な血管の位置なども把握し、どこに仕掛ければ相手が不能になるかを理解しているのだ。
本当に賢い子である。
そしてその賢さで、この間は黄貴妃のところの刺客をしっかり不能にしてとらえて尋問にかけたそう。
そのおかげで黄貴妃の次なる狙いは欣怡様のお子が育たぬうちに、母体を危険にさらせというものだったそうだが、それもあまり意味をなさないまま終わった。
何しろ、絶賛悪阻と戦っていた欣怡様はほぼ金華宮に引きこもり状態だったのだから接触のしようがないのである。
そして、ベテラン武官の辺境からの召還によって手厚い警護体制が構築されてしまった。
そして、現在少々悪阻が落ち着いた欣怡様はご公務の真っただ中にいた。
感謝祭の始まりを告げる、皇都感謝祭を行うことを告げる声を上げた陛下。
その隣に微笑んで佇む欣怡様。
大変絵になる、ツーショットだった。
そしてそこで陛下は言った。
「このたび、皇妃が御子を授かったこともここに報告する。次代が産まれるのを楽しみにしてくれ」
そんな宣言に国民が狂喜乱舞で感謝祭をスタートしたのは間違いなかった。
皇妃様とまだ見ぬ御子の誕生を寿ぐように、皇妃様と赤ちゃんのクッキーやら飴やら、いろんなコラボ商品がたくましく商人の市に並ぶ。
お祝いムードにたくさんの人が買う。
開会宣言のされたお寺の境内もこの高回転な現状がまだまだ理解できない様子だった。
「商人って抜け目なく売れる物を確実にそろえて売りに来るわよねぇ」
後宮も感謝祭の広範囲は広い庭園の一角に市が立つのでこの日は基本侍女も侍従もみな休みだ。
後宮にも市をという発想は陛下には無く、発案者は欣怡様だと聞く。
欣怡様も実際の皇都の街中の位置関係を覚えなくてはならないと実感している。
ここには基本王族に嫁ぎ程の家柄があり、今の皇妃なら勝てると思って残った強メンタルの持ち主たちである。
それでも、それは御子が出来るまでの話。
そもそも陛下の渡りが全くない貴妃達では御子が出来ようはずもない。
だって、後宮に入ってから皇妃様以外は誰一人陛下のお渡りが無いのだから。
私のところには、火種の一つとして一日来たがその後は昼間のみであり夜間に碧玉宮へ来ることはまずないのだから条件はほかの貴妃と同じだ。
それでも皇妃様の次に陛下と会うことが多いのは私である。
幼馴染で、皇妃の護衛役でもある私だから良い感じに後宮の市にも顔を出せそうだ。
欣怡様からも、開会の儀式の後に立つ後宮の市に一緒に行くようにと言われているので。
皇都の市に比べたら小さいだろうけれども、ここは後宮なのだ。
良いお品がいっぱい並ぶこと間違いなし。
楽しみだなと、うきうきとした心持で市を楽しみに待つのだった。