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第10話 春の国と夏の国

 シルクとハルとサクラの三人は中庭から移動して、城の中にある会議室へと入る。

 そこは大人数で会議をするような大部屋ではなく、正方形のテーブルが真ん中に置かれただけの小部屋だった。

 床も壁も白一色で、白いテーブルには椅子が1つしかない。しかも正面には白い壁があるだけ。


「これで、どうやって会議するの?」


 シルクが疑問を口にすると、サクラが手の平を前方の壁に向けて説明する。


「あちらの壁に映像を投影します。原則として会議は1対1の対話になります」

「あ、シルクちゃんは映像に映らないように、こっちに来て」


 ハルに片手を引っ張られて、シルクはハルと共にテーブルから離れて後方に下がった。するとサクラがテーブルに着席する。

 あの椅子に座った者だけが相手側に映像として投影される仕組みなのだ。


「ハルくんじゃなくて、サクラさんが会議に出るの?」

「うん。まずは側近だけ。季節の神どうしが対面する時間を極力抑えるためにね」


 シルクには、そこがどうも気になる。まるで国交を避けているような言い方だ。


「やっぱり他の国の神様とは仲良くないから?」

「うーん、ちょっと違うかな。確かに仲良くはないけど、仲が悪い訳でもないよ」


 ハルの説明は要領を得ないが、ここで椅子に座ったサクラが背中で後方の二人に伝える。


「ハル様、よろしいでしょうか。お時間ですので、会議を始めます」


 了承の意味でハルが沈黙すると、サクラが座るテーブルの正面の壁に映像が投影される。

 投影機は見当たらないので、科学的な技術ではなく魔法的な力だと思われる。

 壁に投影された人物は、褐色肌に赤髪の男性。サクラを目の前に映した瞬間に、その男が身を乗り出して勝手に話し出す。


「愛しのサクラちゃ~ん!! 会えて嬉しいぜ、元気ぃ~!? 最近どうよ!?」


 会議らしからぬ異様な明るさのテンションで、今にも画面から飛び出してきそうだ。一対一の会議なので、サクラと男性は互いの姿しか見えていない。

 サクラとハルの目は同時に据わるが、シルクは銀の瞳を見開いて驚く。


(あの人は、前にサクラさんと一緒にいた……確か、アラシさん!?)


 シルクがシーズン国で目覚めた日に、サクラと一緒にいた男性だ。確かに彼は夏の国の者だと言っていた。

 しかしシルクが必要以上に驚くのは、そこではない。


(アラシさんが夏の国の神様だったの!?)


 アラシは神らしく見えないが、それを言うならハルも同じだ。

 あの時、シーズン国でサクラとアラシが本当にデートしていたのなら、サクラは異国の神と恋仲で……そっちの方が重大事件だ。

 瞬きもせずにアラシを見つめているシルクを横目で見たハルは不機嫌な顔になる。


「彼は夏の神の側近、アラシだよ」

「え? あ、あぁ、側近なのね……」


 なぜか少し安心したシルクだったが、状況は大して変わらない。

 まずは各国の側近どうしで近況報告をするようだ。サクラはアラシに対しても側近としての真面目な態度を崩さない。


「スプリング国は変わらずです。アラシ殿、サマー国の報告を」

「真面目だなぁ、サクラちゃん。サマー国も至って変わらねぇ。以上、報告終わり!」


 勝手に会議を終わらせてしまうアラシだったが、彼にとっては、ここからが本番なようだ。


「それよりもサクラちゃん、次のデートの約束を……」

「では、ハル様に代わります。そちらも準備を」


 バッサリとアラシとの会話を打ち切ると、サクラは席を立った。ここから先は、いよいよ神どうしの対話になる。

 サクラが後方に下がると、代わってハルがテーブルの椅子に座る。アラシも退席して、目の前の壁には何も映っていない。後方のシルクの横に今度はサクラが立つ。

 ハルが顔を上げて前方を見ると、白い壁に人物の映像が映し出される。

 それは褐色肌にオレンジの瞳で赤髪という、アラシと似た容姿の男性。アラシは長めの髪を後ろで結んでいたが、彼は短髪だ。

 シルクはその男性を見た瞬間に、先ほどとは比べ物にはならないほどの驚きで声を上げた。


「えっ……きゃっ!?」


 反射的にシルクは両手で顔を覆って視界を隠す。

 シルクが直視できないのも無理はない。壁に投影された彼の上半身は……裸だったのだ。



 夏の国・サマーを治める『季節の神』、ナツ。

 滅びが迫る世界の中で、シルクが出会う季節の神々。彼もまた曲者の予感がしたのであった。

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