僕とゼラニン、同時に地面を蹴って駆け出した。こちらも魔力を流し込んで強化された剣で、相手の二本の剣と打ち合っていく。
しかし剣の技量はゼラニンの方が上。すぐにボロが出てしまい、体を切り刻まれてしまった。
「もらったぁ!!」
ズバン!首を斬り裂かれ、血がぶしゃっと噴き出た。これは致命傷、普通なら死ぬレベルの傷だ。だけど僕は不死者、こんな傷を負ってもしなない。
ただ、死に瀕するほどのダメージを負ったため、また「不撓不屈」が発動され、僕はまたさらに強くなっていく……!
「ば、かな………。確かに頸動脈を切り裂いたはずだぞ!?」
「身体修復」のことを知らないゼラニンは、僕の首が綺麗にくっついてることに疑問をぶつける。
「貴様はいったい、何なのだ!?」
「殺されても死なない、不死者」
そう答えて僕はその場で剣を思い切り振るい、三日月形の魔力の塊をゼラニン目がけて飛ばした。
咄嗟に交差させた剣で防御するゼラニンだったが、その剣はどちらもバラバラに壊れてしまい、その身に致命的な裂傷を負った。
「ばか、な………威力がまた、上がって………………」
「今回の一撃は、『報復精神』による威力補正が入ってたんだよね。自分に攻撃をしいた相手に繰り出した自分の攻撃の威力が倍になるパッシブスキルさ」
体を切り裂かれたゼラニンは僕の言葉に答える体力も無くなったか、そのままばたりと倒れた。あれ程の実力者ならば、まだ息はあるだろうな。
「あんたは僕を一度ならず二度も殺した。ここまでしておいて自分は殺されないだなんて、思ってないよね?」
「お………のれ、え」
「“殺されたら殺し返す”が、僕のモットーだ。僕は死ななかったけど、あんたはどうだろうね?」
そう告げて、僕はゼラニンの心臓を一突きし、首を掻っ切ってやった。当然ながらゼラニンの心臓は止まり、ピクリとも動かなくなった。
「ふう……これで襲ってきた護衛団は、全員殺し返せたかな。それにしてもこいつらって、フリューゲン公爵家の差し金なんだっけ。てことはアンジェリーナかその弟のミュカスってやつが、こいつらを仕向けたってこと?」
だとしたら随分な報復行動に出てきたものだ。決闘に負けてその罰として弟をボコボコにしたくらいで、ここまでの戦力を寄越して、挙句殺害までさせるなんて。フリューゲン公爵家ヤバ過ぎるでしょ。
田舎の平民に…最弱だった傭兵にコテンパンにされたことがよほど屈辱だったのはお察しするけど、殺人まで踏み込む程のことなのだろうか。
何はともあれ、今日は傭兵の仕事に行く気にはなれないし、この件をこれで終わりにさせる気も全くない。
他人に人殺しを任せておいて、自分たちは安全なところでのうのうと過ごしているなんて、許せるわけがない。
「僕の殺害を命じたというのなら、あいつらも同罪だ。公爵家の上級貴族様だろうが関係ない。しっかりやり返してもらうからな………!」
そう決意して、僕はゼラニンの首を手に、フリューゲン公爵家の屋敷を目指して走り出した。
***
(現在―――)
護衛団と戦った場所からそう離れてないところに公爵家の屋敷があったお陰で、大通りを行かずに済んだ。人の頭部を持ってるところを見られたら大騒ぎになって、騎士団にしょっぴかれるからね。隠す手間が省けた。
屋敷の門には家の警備員らしき男がいて、素直に通してはくれなそうだったので、大胆な訪問方法をとることにした。
「何者だ、貴様―――」
両手に溜めた魔力の塊をぶっ放して、威圧的な態度で話しかけてきた警備員ごと家の門とその先の玄関をぶっ壊してやった!ドガァンズガァンと破砕音が鳴り、草木が燃えて煙が上がった。煙たいのを我慢しながら門を通過し、壊れた玄関も通って、屋敷に侵入してやった。
「い、いった誰だ…!?ここが偉大なフリューゲン公爵家の屋敷と知ってのろ、狼藉か!?」
玄関ホールの向こうから、少年の震える声が聞こえてきた。
「おー、やっぱりここがフリューゲン公爵家のお屋敷で合ってたー!それで、今の声も、聞き覚えがあるなあ?確か公爵家三兄弟の末っ子の……何だっけ」
わざと名前を忘れたふりをして、惚けてみせる。
「何者だ、我がフリューゲン公爵の由緒ある屋敷にこのような蛮行をはたらくとは、よほど頭のねじが外れたやつのようだな」
今度は知らない男の声が聞こえてきた。この家の当主なのか、それともゼラニンのような護衛兵なのか。
声の正体について考えてるうちに煙が晴れて、家の中がくっきり見えるようになった。
「「あ……!?」」
踊り階段の上からアンジェリーナと、初めてみる男の腰にしがみついているミュカスが、僕を見て驚きの声を上げた。
「お邪魔しまーす。田舎町コヨチで暮らす平民の傭兵、ラフィでーす」
軽い調子で挨拶を述べてから右手を掲げて、ゼラニンの頭部を三人に見せてやった。
「何…!?」「きゃあ!?」「うわあああっっ」
当然ながら三人は尋常じゃないリアクションを見せてきた。ミュカスがしがみついている男が険しい形相で手から氷を生成して、それを僕目がけて放ってきた。
「氷柱……水魔術の極致、氷魔術か。かなりの魔術使いだね」
「貴様、ラフィと名乗ったな!?貴様が我が妹に敗北の土をつけ、弟を散々殴った下賤な平民傭兵で違いないな!?」
姉と弟……てことはあの男はあの二人の兄者ってことなのかな。年は20を超えた、大人の長男か。
「まあ、そういう解釈で合ってるよ。そのクソガキ…じゃなかった、三男坊をボコボコにしたのは、決闘で勝ったらそうするって約束でやったわけで、こんな護衛団を使ってまで仕返しをされるような事はないと思うんだけど」
そう答えて、ゼラニンの頭部をぷらぷら振ってみせる。
「その首………我が護衛団のリーダー、ゼラニン。まさか貴様が討ち取ったというのか…!?」
「うん。ついでに言っておくと他の団員たちも、僕がまとめて返り討ちにしたから」
護衛団を全滅させたと聞かされて、アンジェリーナとミュカスは信じられないと言わんばかりに目を見開く。
「そんな、17名の手練れの戦闘集団を、いったいどうやって!?ゼラニンに至っては二等騎士の元王国騎士なんだぞ!?」
ミュカスがガタガタ体を震わせながら何か喚いている。そのクソガキの隣まで、僕は一気に跳躍した。
「え―――」
「お前だよな。僕を護衛団が待ち構えていた建物に転移させたのは―――っ」
ドガン!呆然としていたミュカスの顔を裏拳で殴りつけて、部屋の壁まで吹き飛ばした。
「何…!?ひとっ跳びでここまで移動を!?」
「いやああっ!?ミュカスぅうう!」
僕の跳躍に驚きをみせる長男と、見事に壁にめり込んだミュカスに悲鳴を上げるアンジェリーナ。
「貴様、またしても我が弟に手を上げたか……っ」
怒りの声とともに長男は手から氷魔術…氷柱をいくつも放って迎撃してきた。魔力を流し込んだ剣で弾き、回避してみせた。
「だってそいつのせいで護衛団に囲まれる羽目になったわけだから、その仕返しをね?」
「く………この外道っ」
ミュカスを抱き締めながら罵声を浴びせてきたアンジェリーナに、僕は殺気を放った。
「よく言うよ!お前かそのクソガキのどっちかが、護衛団に僕を殺せって命令したくせに!」
「ひ………っ」
アンジェリーナは真っ青な顔で、ミュカスを抱きながら後ずさる。
「で、どっちが護衛団を僕に仕向けたんだ?僕がここに来たのは、護衛団を動かした奴を殺す為なんだから。早く答えてくれないかな?」
殺気を込めた魔力を右手に集めながら脅してやる。しかし魔力を溜めてる途中で横から高速で飛来してきた氷柱によって、魔力が分散してしまった。
「おい……さっきから俺を無視して姉弟に手をあげるとは、良い度胸だな?」
怒り心頭といった表情の長男が、左手から氷の塊を生成させ、右手には切れ味良さそうな剣が握られていた。
「護衛団を貴様に仕向けたのは、この俺……フリューゲン公爵家長男にして王国騎士団副団長でもある、マストールさ!」