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第165話……新兵器!?

 統一歴571年1月――。


 オルコック将軍率いる王国軍は、敵地で新年を迎えた。

 敵の謎攻撃の影響などで、戦線が膠着化していたためだ。


「将軍、敵の攻撃の謎がわかりましたぞ!」


「おう、まことか?」


「雇った間者が、敵の新兵器を盗んでまいりました。名前を火縄銃というそうです」


 オルコック将軍に長い筒状の兵器が手渡される。

 この世界においても、魔力を使った富裕層向けの護身用の銃器はあった。

 だが、その銃器は小さく、射程も威力も十分なモノではなく、弩などに劣る兵器であった。


「ふむう、これは魔導士でないと使えんのか?」


「それが誰でも簡単に使えるそうです」


「なんと!?」


 長弓であろうと弩であろうと、それは槍や剣などと違い、使いこなすには訓練と経験が必要であったのだ。

 また、魔導士にいたっては生まれ持った才能と長い修練が必要で、一万の軍勢であっても、数人いればいい方であった。


「この火縄銃というのは、特殊な薬剤の爆発力でミスリル製の弾丸を飛ばすそうです」


「なんと!」


 至急準備がなされ、幕僚たちが集まる中で火縄銃の試射が行われた。

 射撃により轟音が響き、目標とされた鋼製の金属鎧に大きな穴が開いたのであった。


「……こ、これは! すごい」


「なんと!?」


 幕僚たちが一斉に感嘆の声をだす。

 長弓でも弩であっても、このように鋼を撃ち抜くのは不可能である。

 そのようなものを扱うのに、訓練の必要がないとは……。


「この兵器に弱点はないのか?」


「火を使うため、雨に弱いと聞いております。ですが、小雨くらいでは運用に支障がないようです」


「ふむう。で、ギブソン伯爵の方はどうなっておる?」


「それが、どうも裏切りを警戒されているようで、目付をつけられて下手に動けないそうです」


「……そうか」


 伯爵が警戒されているのは事実だろう。

 だが、それよりも王国軍側の形勢が悪い方が原因であろう。

 なにも不利な側に寝返る人間なぞいないのだ。


 オルコック将軍を含め幕僚たちは、伯爵に裏切りを決断させるには、こちら側に付いた方がいいと思わせるきっかけが必要だと感じていた。


 そうこうする間に、商国軍は野戦陣地を強化。

 国土を守り抜く決意を露わにしていたのであった。




◇◇◇◇◇


 それから三日後――。


 王国軍はミスリルの銃弾を防ぐべく、鉄の盾を三枚重ね合わせたモノなどを製作。

 力自慢の者に持たせ、被害を減らす対策を取っていた。


「一斉に、攻め寄せよ!」


 銅鑼がかき鳴らされ、王国軍の戦列が一斉に前進した。

 商国側の陣地から、雨のように矢が降り注いでくる。


 半面、王国側の弓兵は矢不足に悩まされていた。

 連戦で矢の消耗は激しく、長い補給路で雪の影響もあり、十分に矢が補給されていなかったのだ。

 食料や秣は最悪、周辺の集落を襲えば手に入ったが、矢などの武具はそうもいかなかったのだ。


「撃って、撃って、撃ちまくれ!」


 片や商国軍は、ここから首都まで五日の距離。

 様々な補給も容易かったのだ。


 ダダーン!――


 幾らか進んだところで、商国側の火縄銃が火を噴く。

 狙われたのは、馬上で指揮を執る騎士たちであった。

 少し高い位置の方が状況を把握しやすく、指揮も執りやすいために、騎士たちは騎乗にこだわっていたのだ。

 だが、そこを突かれ、次々に前線指揮官たちが命を落としていった。


「退け! 退け!」


 前線で指揮を執る者たちが、次々にやられては戦にならない。

 王国軍の前衛部隊は大混乱。

 いったん退却するしかなかったのだ。



 翌日――。


 先日の反省から、騎士たちも渋々徒歩で行軍。

 矢などの対策から、盾が足りない分は木の板なども使用して戦に臨んだ。


「怯むな! 押し寄せよ!」


 矢の雨の中、王国軍の戦列は前進する。

 いくばくかの被害を受けながらも、商国軍が施した柵の前までたどり着く。

 だがその頃には、商国側の陣地の柵は何重にも張り巡らせてあり、安易に柵を撤去されないように逆茂木なども沢山備えてあった。


 ダダーン!――


 商国側の火縄銃が、この時を待っていたかのように至近距離で一斉に火を噴く。

 この距離になると、ミスリルの弾丸は全ての盾を貫いた。


 盾を構えるものが倒れては、弓矢による被害は著しく増大。

 もはや、商国側の柵を引き倒すどころでなく、無事に逃げ帰るだけでも一苦労であった。




◇◇◇◇◇


 その晩――。


 オルコック将軍は幕僚や前線指揮官たちを集め、軍議を開いた。


「ここを突破するのは不可能ではございませんか?」


「左様、ここは今からでも迂回部隊を編成するべきでござる」


 あと五日の距離で、商国の首都であるグスタフの城塞都市なのだ。

 だが、この地図上では指呼の間が、すさまじく遠く感じられていた。

 もはやこの状況では、ギブソン伯爵の裏切りなど望むべくもなかった。



 軍議で迂回作戦が決定されようとしていた時。

 ここから北側に配置していた斥候が急ぎ戻ってきた。

 斥候は馬から転げ落ちるように、オルコック将軍の前に進み出る。


「申し上げます。宰相カンの部隊が北部勢力と休戦で合意。そのため宰相カン率いる五万の兵がこちらに向かってくるとのことです」


「なんだと!」


 幕僚たちの顔が青ざめていく。

 こちらが時間のかかる別動隊を編成している場合ではない。

 このままでは挟み撃ちにされてしまうのだ。


「将軍、まだ敵宰相の部隊とは行軍にて数日の距離があります。被害を恐れずここは正面突破するべきです」


「左様、ここさえ突破できれば、相手の首都陥落が達成できるのです。ここは攻めの一手だと思われます」


 ここに陣取る王国軍は五万、そして正面の商国軍は二万。

 確かに数字上は押しきれるはずであったのだ。


「よし、明日に総攻撃をかける。投石車などの攻城兵器も動員し、全力で攻めかかるのじゃ!」


「はっ!」


 こうして軍議は決し、方針は被害を顧みない正面突破となったのだった。

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