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第105話・どんな時でも②

新生ねおたんとプチちゃん、キティちゃんで野菜の皮むきとカットよろしく」

「オレもかよ……ってか、いい加減その呼び方やめろ」


 と言いながらも、渋々と野菜の皮むきを始める初代はつしろ新生ねお


 ——って、なんだと⁉


「おま、剣鉈で野菜切るのかよ……」


 それでも、こう見えて母親の手伝いをしっかりしていたのだろう。手つきがアンジーとは全然違う。


 切り株をスライスして作った”まな板“の上には、すべての野菜が同じ大きさに切り分けられ、整然と並んでいた。


 華麗な剣鉈さばき。里芋の皮を剣鉈で剥くなんて、プロの料理人レベルなのかもしれない。


「刃物なら任せろ」


 ストンッと剣先を切り株に突き立て、ニヤリとして見せる初代新生。


「怖いわ!」


 プチはサポートに徹し、野菜を手渡したり”小枝で編んだザル“に上げたりと大忙し。

 キティは小川で野菜を洗って光の速さで届ける役を担っていた。


「ネネ、ベルノも手伝うニャ!」

「おっ、じゃあ、ベルノとバルログ、ミアぴ(ラミア)でお湯沸かして~」


 水の入った重い寸胴は、バルログのパワーとラミアの浮遊魔法でサクサク運んでもらう。そして火の扱いに長けている二人がサクッと着火。


「ベルノ、尻尾焦がさないようにな~」


 それにしても、火おこしをする必要がないってだけでいかに快適かとしみじみ思ってしまった。


「ガスコンロが使える時代ってスゲー恵まれていたんだな……」


 ……しみじみ。



「なあ、亜紀っち。麺ってのはこんな感じでいいのか?」

「うお、光ってやがる……」


 茹でてもいないのに輝きを放つ極上の麺が目の前に! 


 ガッツリと練っているから硬さに偏りがなく、重力魔法のプレスで熟成が進みコシがしっかりとあるのがわかる。

 もちもち触感の“ほうとう”と言うよりは平打ちの讃岐うどんって感じだけど、これはこれでめっちゃ美味そうだからヨシッ!


 ——さあ、下準備も終わり、ここから調理開始だ。


 鰹節や炒り子でダシを取って、野菜を煮込んでいく。まずは根菜類を投入、葉物は最後に。


「根菜類に軽く火が通ったら、砂糖を少し加えて“含み煮”にする。こうする事でほんのりとした甘さとダシの風味が野菜の中に入っていくんだ」

「なにその八白さんらしからぬ繊細な技術」


 ……アンジーうっさい。


 普通のほうとうなら野菜に七割ほど火が通ったら麺の投入なんだけど、”夏のほうとう“はここからが違う。


 


 ——そう、【おざら】とは、ほうとうのつけ麺なのだ!


「野菜を煮込んだ熱々の味噌ツユに、冷水で〆たもちもちコシのある麺をつけて食す。これが麺食い県山梨の、夏の定番(注)なんやで!」


 そして味の決め手はこの味噌ツユ! 


 まずは味噌を半分だけ入れてグツグツと煮込むと、野菜の旨味が汁に溶け、味噌の風味と塩気が野菜に入り込む。言わば味の等価交換だ。


 そして残りの半分は火を止めてから投入する。これで味噌の風味が熱で飛ぶ事がなく、味のしみ込みもバッチリ!


 油揚げは先に遠火で炙って焼き目をつけつつ油抜きをして、火を止める寸前にツユに放り込んだ。香ばしくパリッとした表面の油あげと味噌の風味がめっちゃ合うんだ。



「——よし、夏のパーフェクトフード、おざらの完成やで!」 



 熱々で野菜たっぷりの味噌ツユに投入するのは、小川の綺麗な冷たい水で〆た角の立ったしっかりもちもち食感麺。


 そして小川の流れを聞きながら、そよ風に吹かれて食べる。


 ……これ以上ない贅沢だ。


「うおお、ラーメンも最強だけどコレも最強じゃねぇか!」

「美味いっス。ヤバイっス」


 ティラノとルカの食欲は特に凄く、消費量が半端ない。なんか恐竜人ライズたちにも好評だし、これからも色々作るとしよう。


「う~ん、八白さんにこんなスキルがあったなんて……」

「油揚げ……美味い……」


 口いっぱいに頬張りながら、それでもまだ信じられないと言った様子のアンジーと、サクサクの油揚げに我を忘れる油揚げ星人の初代新生。


「ね、八白さん。ところでこの見たことのない野菜はなに?」

「ああ、それね」


 ウチはアンジーが座っている脇を指差すと、そこには小さいキャベツのような謎植物が生えていた。


「え……まさか……」

「大丈夫、ちゃんと食えることは確認済み。この時代に自生していたよくわからない野菜だけど、味は悪くないんだよね。それに安全性もバッチリやで。ミアぴ(ラミア)とベルノに待機してもらって毒見したからね」

「おまえ、マジかよ……」


 流石に目を丸くする二人。でも、人類の歴史ってそれの繰り返しだったと、どこかで読んだ記憶がある。特にキノコ類とかは死にながら安全確認してきたって聞いたし。


「……そうか、先々のことを考えているんだ」

「そそ。さすがアンジー、理解が早い」


 食を知るとは、その地の文化を知るって事。そして文化というのは人が積み重ねた歴史……ここをその出発点にするんだ。


「なんだそりゃ?」

「つまりね、この時代に生きる恐竜人ライズの為に、自給自足ができる環境を作っておきたいんだ。ウチたちがいなくなったら餓死しましたとかありえないっしょ」

「ならばもっと色々と探さないとだね。あとさ、八白さん」

「ん?」

「キャベツの芯を水につけておくとか、メロンの種を選別したりすれば、発芽させることができるらしいよ」

「え、マジ? そんな裏技あったんだ」


 アンジーって料理はポンコツなのに、そういうトリビアは豊富なんだよな。


 でも、これは色々試してみる価値があると思う。ジャガイモとかもすぐに芽がでるし、可能性は無限大だ。


「知識ってめちゃ大事だな……」


 みんなに大好評な夏のほうとう【おざら】はかなり大量に作っておいた。もちろん、海の家にいるアンジーの恐竜人ライズたちの分もだ。あとでキティに配達してもらおう。



 ……ところで、朝からず~~っと木の陰に隠れ潜んでいる魔王軍の二人がいるんだけどさ。


 もちろんみんなには気づかないフリをしてもらっていた。『安全はウチが保証するから』と。


ミア姉(メデューサ)たち、やっぱりアンジーが怖くてでて来られないのか……」







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(注)もちろん地域による。県民でも【おざら】そのものを知らない人もかなり多い。

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