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第131話・問題はそこじゃない……

 ここからは川縁かわべりに場所を移して会議の続き。緑玉で麻痺から回復した二人が、こぞって水を飲みに走ったからだ。


 ……唸りすぎて喉が渇いたとかホント仲ええな。


「あとさ、これを話すのは迷ったんだけど……」


 と、切りだしたものの、実はまだ迷っている。それは最も気になっていて、まったく情報がない転生/転移者の”覚醒“についてだ。


 なぜかはわからないけど、女神さんはかたくなに言おうとしない。

 だから特に深い意味もなく『言わないならアンジーたちの神さんに聞いてもらうで』と、言ってみた。そしたら……


 、是非そうしてくれと言われた。


「どうしたの?」

「さっさと話せよ、うぜえな」

「……うん、ホント真面目な話だから、本気で考えて欲しい」

「真面目な八白さんって珍しいね。氷河期になるよ?」

「ああ。なんだよ、気持ち悪りぃ……」


 ……そこまで言うか。ウチ、そのうち泣いちゃうぞ。


「転生者のさ、というか君らの場合は転移者だけど、“覚醒”って聞いたことある?」

「覚醒? なんだろう……」

「知らねえよ、そんなもん」

「だよねぇ……」

「それがどうかしたの?」


 アンジーは食い気味に体を乗りだして興味津々。初代はつしろ新生ねおは、ほとんど関心がないといった反応を見せる。


 もうちょっと周りを見てほしいところだけど、JKにそこまで求めるのは酷なのかもしれない。むしろ今は、アンジーの“強すぎる”好奇心がちょっと厄介だ。


 ……妹アンジーの件は絶対にバレる訳にはいかないのだから。


 妹が魔王軍にいるとわかったら、戦略もなにもなく一人で乗り込んで行ってしまうだろう。それだけは絶対に避けないとならない。


「予知能力と関係があるって感じ?」

「うん。毛玉(グレムリン)の言葉だからどこまで信用できるかは不明だけどさ。覚醒ってのをすれば、ウチたちも予知みたいなチート能力が使えるかもしれないんだよね」


 女神さんがさっさと教えてくれれば、こんな面倒な事しなくて済むのに。と、ウチは単純に考えていた。


 しかしこの状況に、アンジーはなにか”引っ掛かり“を感じたらしい。


「八白さんの言葉通りなら、この先の戦況を有利に持って行けるとは思うけど。ちょっとね……」

「なんだよ、強くなるならいいじゃねぇか」

「初代さ、もうちょっと先まで考えるようにしようよ。


 ……アンジーはなにを危惧しているのだろうか。


「覚醒できれば有利になるよね?」

「だから、それで強くなるんだろ? なにが悪いんだよ」

「そんな有益な情報を、敵であるグレムリンが私たちに話す必要があるのかな?」

「あ……」


 そうか、言われてみれば……ウチたちがチート能力を手に入れたら、魔王軍にとってはマイナス要素にしかならない。


 ——そんな事をわざわざ教えてくるなんて、裏があると見るのが当然だ。


「多分、なんだけど。その覚醒ってのにはなにか制約というか……対価みたいなものが存在するのかもしれない。それもかなり致命的な部類のね」

「致命的な……対価?」

「多分ね。ただ、スーの行動で裏をかく事ができたってのは、その予知能力者自身に大きな負担がかかっていて、力を発揮しきれなかったって考えれば納得できるんじゃないかな?」


 なるほど、それならつじつまが合う。わざわざグレムリンが情報を漏らしたのは、マイナス要素に期待しているってことか。


 ウチたちが覚醒してチート能力を手に入れても、それにともなう負担の方が魔王軍的にはプラスに働くという計算なのだろう。


 ……そうすると、ますます妹アンジーの救出を急がないとならない。


 転移者に負担があっても覚醒能力を使わせるって事は、最終的に使い捨てるつもりなのだろうから。


「それでも予知能力ってとんでもなかったよ。あんな“幼女”が部長(ドライアド)を抑え込んだって話だし、少しくらいの対価なら払ってでも……」


「ちょっと、八白さん?」

「ちっ……ふざけんなよ」


 ……え、なにこの二人の反応は。どうしたんだろ?

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