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第20話 懐かしい者達

 シェンヌと別れて森を出た後、どっと倦怠感が出てきた。


 体の疲労はシェンヌのおかげで少ないが、精神的な疲れが増している。


(何故俺を選んだかはわからないが、あの気持ちに応える事は出来ないな)


 ルナリアに会う前であれば一考したかもしれないが、今は期待をもたせるような事など言えない。


 結局悲しませてしまい心は痛むが、仕方ない事だろう。


 暗さを感じてふと顔を上げれば、空が紺色に移りゆくところだと気づく。


「もう日暮れか」


 先程までまだ日が高いと思っていたのだが、どうやらゆっくりとし過ぎたらしい。


 心の重みで知らずに足取りが遅くなっていたのもありそうだ。


(どこか休める場所を探さなくてはならないな)


 シェンヌのいた森に帰る事は出来ないので、どこか他神に見つからない所を探す必要があるな。


「人の街に行ってみるか」


 人に紛れてしまえば他の神をいたずらに刺激する事もないだろう。


 人と関わる事は危険だと聞くが、他にいく当てもない。


「いや、あの方のもとならもしかしたら……」


 地上の神で唯一頼りになりそうな者は浮かんだが、すぐに頭を振る。


 自分が転がり込めば迷惑しかかけないし、天上神と海王神を敵に回してしまってはどんな強い神力を持っていても、勝てるとは思えない。


 最高神二人を相手取り戦うなんてどう考えても無謀だ。


「……だが、いつかは相対しなくては。それをやらねばルナリアを助けられない」


 兄が居るからすぐには海底界などに連れていかれないと思うが、時間が経てばどうなるか。


 ルナリアの身を案じ、焦燥感に駆られる。


「早く、会いたいな」


 何も出来ない己に歯痒さを感じ、ルナリアがいるであろう空を見上げる。


 そうして見上げていた、こちらに向かってくる二つの影に気がついた。


「まさか天空界からの遣いか?」


(生きてると知られたら、まずいかもな)


 自分の死を確かめに探しに来た者かもしれない。


 今再び天上神達に相まみえる事になれば、今度こそ確実に殺されるだろう。


 それに俺が助かっていたと知られたら、兄がどんな仕打ちを受けるかわからない。


(……追手なら殺す)


 刺し違えてもと、そう身構えていたのだが、見覚えのある顔だった為に一瞬戸惑ってしまった。


「やっぱりソレイユ様だ!」


 俺を見て泣きながら寄ってきたのは部下であるニックだ。アテンも共にいる。


「無事で良かった……これでルシエル様に顔向けが出来ます」


 いつも気難しいアテンも、安堵したような顔を見せる。


「お前達、何故ここに?」


 向けた拳をおろすと二人は俺の前で膝をついた。


「ルシエル様の命を受けて我々はここに来ました」


(やはり兄上が助けてくれたのか)


 自分を攻撃したように見せて地上へと逃がしてくれたのは、間違いないようだ。


「ルシエル様に言われ急ぎ追いかけたのですが、なかなか来ることが出来ず、申し訳ありません」


「いや、こうして来てくれたのは有り難い」


 本心からの言葉だ。正直右も左もわからない地上で、こうして部下達と会えるとは心強い。


「それでソレイユ様、お怪我とかはありませんか? 体の調子が悪いとか」


 ニックが心配そうに俺の体を隅々まで観察していく。


「大丈夫だ、怪我などは全て治してもらった」


 俺は地上に落ちてからの出来事を二人に話す。


「そんな事があったのですね……ハディスとは聞いた事のない言葉ですが、それにしても無事で良かった」


 アテンでもやはり聞き覚えはないか。


 ニックは頷くだけで何も言わない。恐らく話が頭に入っていないのだろう、ずっと目が泳いでいる。


「厄介な敵だったが、おかげで神力を増やすことが出来た」


 相手を倒したことで得られた力は今の俺には有り難いことだ。


 完全に神力を取り戻した、とまでは行かないが、それでも足しになった。


「さすがソレイユ様です。そうそう、ルシエル様から伝言なのですけど」


 ニックが身振り手振りで兄から言われたという内容を伝えてくる。


 何とかそれらを見て伝言を把握するが、ニックは伝令役に向かないな。


 今度兄に会った時はぜひアテンに伝えるように進言しよう。


 途中でアテンからの補足も受けながら、何とか理解することが出来た。


「地上で外敵達を倒し力を蓄えていろとの事か。ルナリアを助ける好機が来るまで待てと」


 確かに今の俺には力がない。言われたとおりにした方が、結局のところ近道なのだろう。


 闇雲に向かったところで勝てない相手だから仕方ないが、それでも心配だ。


「ルナリアは今どうしている?」


 俺の言葉にアテンとニックは表情を曇らせた。


 二人は口を閉じたままだ、嫌な予感がする。


「なぁ、教えてくれ。今のルナリアの様子を」


 暫し時間をあけ、アテンが重々しい口調で話し始めた。

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