「お前などこの世界に必要ない!」
そう叫び、父様はソレイユに向かって両手を翳した。
ソレイユは抵抗も出来ぬままにくずおれ、力が出ないのか立つこともままならない。
それでもわたくしに向かって必死に手を伸ばしてくれたのだが、その手を掴むことは出来なかった。
「ソレイユ!」
父様に邪魔をされ、彼のもとへと行くことが出来ない。
「そんな事は許さんぞ」
父様の初めて見るその形相はとても恐ろしく、意志とは関係なく体が固まり、声も出せない。
(わたくしは、彼のもとへと行きたい)
そんな望みを声に出すことも叶わず、父様の命を受けた神人達がわたくしとソレイユを阻むように現れ、彼を捕えようと次々集まってくる。
「儂の大事な娘に手を出した罰だ、覚悟をしろ」
(大事な娘ですって? ならばわたくしの話を聞いて、もうあなたの束縛から解放して!)
わたくしを捕え、囲み、自由も尊厳も奪って居場所すらなくしたではないか。
苦しむソレイユと目が合うが、わたくしの力では父様を止める事もソレイユを助ける事も出来ない。
何も出来ない自分が歯痒い、こんな理不尽な事で彼を失いたくない。
「ぐっ?!」
ソレイユか攻撃を受け、苦痛に呻く。その声に心が引き裂かれそうになるが、攻撃は父様からではなかった。
(まさか、そんな!)
「ルシエルお兄様!」
ようやく言葉が出た。自分でも震えていて情けない声だと思うがそんな場合ではない。
(どうして、何で、ルシエル兄様がソレイユを攻撃するの?!)
兄様が操る風はソレイユの体を軽々と浮かび上がらせる。
凄まじい風圧で近づくことは疎か、近くにいた神人などは堪えられず、倒れたり飛ばされたりしていた。
「ルシエル……」
「軽率に動いた事を少しは反省しろ」
兄様が言った直後、無数の風がソレイユを貫いた。
「いやあぁぁぁぁ!!」
頭の中がぐちゃぐちゃで、思考が追い付かない。
自分が叫んだ声すら自分のものと認識が出来なかった。
何も出来ぬまま事態が進み、時がゆっくりと進むような感覚に襲われた。
ソレイユの体が外へと、空へと投げ出されるのを追おうとしたが、それは兄様によって止められる。
「ルナリア、待て」
「何故、何故このような事をしたのです! ソレイユとルシエル兄様は仲が良かったではないですか!」
わたくしの言葉に兄様は目を瞠るが、すぐにいつもの無表情へと戻る。
「ルナリア、お前はあの男に騙されていたんだ」
父様の言葉に顔を横に振って否定する。
「違います! 彼はわたくしを愛してくれた、そしてわたくしも彼を愛している……なのに、あぁ何故あんな事を」
わたくしは体を捩るけれど、がっしりと握られた兄様の手は振り解くことが出来ない。
刻一刻と時間が過ぎる。
時間が経てばソレイユを助けられる可能性がなくなってしまう事など、考えなくてもわかる事だ。
それなのに兄様は一向に手を離してはくれなかった。
「ルナリア、今更向かおうがもう遅い。ソレイユの事は諦めろ」
父様の言葉で体中から力が抜けてしまい、膝から床に座り込んだ。
時間が経ち過ぎてしまい、自分の力ではもう追いつくことなど出来ないなんて嫌でもわかる。
手負いで、神力を奪われたソレイユが無事である可能性は限りなく低い。
(嘘、やだ、こんな事ってあり得ない)
認めたくなどないけれど、ソレイユの死はほぼ確実としか思えない。
その考えが過ぎった途端、体は震え、涙がぼろぼろと止まらなくなる。
「ふっ、うぅ……」
口を抑えようが、声は漏れ出てしまう。
ソレイユを助けられなかった、動くことも出来なかった自分が情けなくて仕方がない。
視界が涙で滲む。
「わたくしも後を追わせて、海になんか絶対に行きたくない! ソレイユと共に死なせて!」
そう叫べば兄様の手に力が込められ、力が流される。
「何を……!」
「今は何も言うな」
違和感に身を捩ればそう叱責され、下腹部が熱くなる。
「機をまて」
それはどういう事かと兄様に問おうとしたら体に痛みと痺れを走った。
「ル、シエル、兄様……?」
視界が歪み、焦点か合わない。
意識を保てずそのまま気を失ったのだが、それに気づいたのは最悪な所で目が覚めた時であった。