バスに揺られて、ネネは学校に行く。
ぼんやりと風景を見る。
また、カンオケバスが来たらどうするかな。
そのときはそのとき。うずくまるか逃げるか。
ネネは、すごい力なんて持っていない。
ドライブはパワーがあると言うが、
ネネ自身はよくわからない。
ネネは考える。
もしかしたら、ここぞというときに出てくるパワーなのかもしれない。
ちょっとかっこいいと思ったけれど、
ネネは普通の一般人で、
そんなことが、まずあるわけない。
ネネは、ちょっとだけ気分が高ぶった自分を落ち着けた。
そうして、バスの中を見る。
普通に通勤通学の人たち。
ネネが何を考えていようが、見えていない人たち。
いるけれどいない人たち。
まぁ、いつものこととネネは思いなおした。
学校までやってくると、いつものように教室に向かう。
何か特別な授業があるわけでもなく、
とりあえずはホームルーム待ちだ。
ネネはテキストをしまうと、ぼんやりと外を見た。
教室の中はいつも騒がしい。
窓の外の風景は、グラウンドで、なにやら運動をしているらしい。
ネネはぼんやりしている。
そのネネが見ていない教室で、歓声が上がった。
「すっごーい!」
「あたってるあたってる!」
ネネはぼんやりしながら、歓声の方を見た。
いつもは散れているクラスメイトの輪が、
知らない間に一つになっている。
歓声はそこからのようだ。
「次あたしあたし」
「ずるーい」
「じゃあ俺」
何かの順番待ち?
なにかすごいことらしい?
ネネの頭に疑問符が飛んだ気がした。
何でもいいやと外を向こうとすると、
「ねぇねぇ、友井さんも見てもらいなよ!」
「すっごくあたるのよ」
クラスメイトが大して話したことのないネネに話しかけた。
あたるものらしい。
「すっごいんだから、佐川さんの占い」
「さがわ?」
ネネはぼんやりと返す。
「やだ知らないの?佐川さんすごい霊感あって、あたるんだから」
「ふーん」
ネネは興味がない。
クラスメイトは佐川がどんなにスピリチュアルで、霊感があるかを語る。
ことごとくネネは興味がない。
クラスメイトは語るだけ語ると、占いを見に行った。
ネネは再び、ぼんやりと外を見た。
「おい」
ボソッと声がかかる。
このぼそぼそのしゃべり方は、久我川ハヤトだ。
「友井は行かないのか?」
「占いとか霊感とか、興味ないし」
ネネなりに言葉を増やしていったつもりだ。
その気になれば、何でもかんでも「べつに」ですむかもしれないし。
「なぁ」
ハヤトは距離を確かめるようにたずねる。
「行先が見える気分って、どんなものだろうな」
ネネは座った席から上目遣いにハヤトを見る。
「わからない、けど、いいことばかりじゃないわよね」
「自分の進むべきレールがしかれているって、俺、なんか嫌なんだ」
「親とか家とか?」
「そういう形にあるのもそうだけど、なんと言うかなぁ…」
ハヤトは頭をかいて考える。
「この線から外れてはいけないってのが、だめなんだ」
「線」
ネネは繰り返す。それは最近ネネが辿っている線のことのように思われた。
「線を辿っていけば幸せになれますとか、辿るだけはいやなんだ」
「へぇ」
ネネは相槌を返す。
「俺は線の上だけでなく、線に入らないことも見たいと思うよ」
「ハヤトはそんな風に思うんだね」
「変、かな?」
「思ったり考えたりなら誰もきっと考えてるよ」
ネネは佐川の占いの人だかりを見る。
「悩みとか苦しみは、線を辿るだけでも、線から外れてでもある」
ハヤトとネネは、人だかりを見る。
「だから佐川がすごいらしいんだと、あたしは思う」
「そっか」
「ハヤトは見てもらわない?」
「何も見るべきではないと思うんだ」
「こわい?」
ネネはハヤトをからかってみた。
「こわいよ、先が見えるってのは」
意外にハヤトは、こわいと言った。
ネネは目をぱちくりさせる。
「変な顔をするなよ、お前も見てくれで判断する女なのか?」
「見てくれじゃなくて、ちょっと意外」
「へんなやつ」
ハヤトはそういうと、席に戻っていった。