朝のホームルールを終えて、
いつもの授業が始まる。
ネネは寝まいと懸命になる。
授業はすごく退屈だ。
わかることになれば楽しいのかもしれない。
でも、何が将来役に立つかわからないし、
何を詰め込んでいるのかわからない。
ネネは辿っている授業に疑問らしいものを持つ。
でも、反論できる言葉もない。
懸命にノートを取って、資料集と見比べる。
資料集はいい。
知らないことが山のようにあっても、
それは資料だからとされていて、
知らないことが、いっぱいあってもいいんだと思わせる。
ネネは授業を受ける。
少しだけ、楽しくなってきた気がする。
昼休み。
ネネは購買でパンを買ってきて、一人で食べる。
少し物足りない。
あとでコロッケでも買ってこようかと考える。
佐川の席はまた、輪ができている。
人だかりというやつだ。
線の先を見るのは楽しいことだろうか。
ハヤトは怖いといっていた。
それも、わかる気がする。
あなたはこうなってしまうと言われると、
悪いことなら不安にもなる。
佐川がどんな占いをしているかは知らないが、
ネネは不安というものは苦手だ。
ネネは外を見る。
サッカーの真似事をしている学生が見える。
きらきらしているなぁと思う。
「友井さん」
ネネに声がかかる。
ネネは振り向く。
そこにはクラスメイトの女子がいた。
名前はなんだっただろうか。
「佐川さんが呼んでる」
女子はそういうと、ネネを促した。
「佐川さんが?」
「佐川さんの特別なのかもしれないね」
「特別?」
ますますネネはわからない。
ネネは席を立ち、佐川のいる人だかりにやって来る。
「ちょっとごめんよ」
言いながら人だかりの中に行く。
中心には、小柄でやせっぽちの、佐川タミがいた。
細い顔なのに笑顔がふっくらとしていて、
見るものを幸せにさせるような感じがした。
「友井さん」
タミはきれいな声で呼びかけた。
「はぁ」
ネネはいつものボソッとした野暮な声で答える。
「友井さんは、占いに動かされない運命を持っています」
タミはうっとりとする言葉をつむぐ。
ネネはなぜかヒヤッとした。
なんだろう、タミは何か怖い。
「カードに問いかけます。友井さんの運命を」
タミは片手にカードを持つ。
机の上に、シャッと流す。
「佐川さんのタロット、超あたるんだから」
「友井さん、すごい運命を持っているのかな」
「特別ってすごいよね」
周りから声がする。
ネネはとりあえず無視している。
やがて、タミはカードをシャッフルして整え、並べだす。
何枚かおきにめくり、考えるそぶりをする。
人だかりが緊張に包まれる。
タミがネネを見た。
ネネは見返した。
「隠れたものがあります」
タミはカードを辿りながら告げる。
「それは導きの上にあるもので、さまざまの手を借りないと見えません」
ネネはじっとタミの目を見る。
タミの目はカードを辿っている。
「今は見えないものでも、これから見えるはず。それはとても大きなものです」
タミの指がカードを示す。
「この、世界というカードが最後に出ているということは」
「世界?そうなの?」
「ええ、最後にちゃんと完結する。調和することを示しています」
「ふぅん…」
ネネは気もなく答えた。
どうも漠然としていて、あたっているのかどうかわからない。
ネネは人ごみを去ろうとする。
聞いただけ聞いた。そう思った。
「それじゃ…」
ネネがその場から離れようとすると、
「レッドラムの線」
タミがポツリとつぶやいた。
ネネは聞き逃さなかった。
「気をつけなさい、レッドラムの線を」
ネネは立ち止まった。
タミはうなずき返した。
「さぁ、次は誰?」
タミはやわらかく周りに声をかけた。
人ごみがやかましくなって、やっとネネは自分に戻れた。
ネネは席に戻る。
漠然であるとしても、将来が見えるのは怖い。
そんなことを思った。