テストが間近い学校で、
ネネは懸命にノートを取る。
大好きな華道もできないし、
タミには妙なことを言われるし、
ネネの頭はこんがらがっている。
何から手をつけていいか、わからない。
そうして、特別授業まで一応終えると、
外は夕焼けから暗くなり、
ネネの頭は勉強したことで、いっぱいになっている感覚がする。
これをまた、復習しないと頭に住み着かない。
勉強というものは、これがまた面倒なのかもしれないし、
また、それが面白くなると、なんでもできるのかもしれない。
今、ネネは自分が知恵熱みたいなのを、
出さないことを不思議に思っている。
なんだっけか、処理をしすぎるとパソコンが熱くなるとか。
そんな感じをしている。
もっさりした動きで鞄の中に物を放り込む。
何でもできるような、何にも出来ないような感覚。
これでテストが大丈夫なんだろうか。
ネネは大きくため息をついた。
どこによるだとか、どこで勉強会をしようとか、
そんな会話が、がやがや聞こえる。
ネネも、重い鞄を持って立ち上がった。
「友井」
ネネに、聞き覚えのある声がかけられる。
ぼそぼそしたその声は、ハヤトだ。
「なに?」
ネネはハヤトの方を向く。
正直、早く帰って何か食べたい気分だ。
エネルギーの消費をしているような、ロボットではないけどそんな感覚だ。
「友井、華道部だよな」
ハヤトはぼそぼそと続ける。
テスト前で華道ができなくて、どうも青春を燃焼できていない気分に、
なんだかネネはだるくなった。
不完全燃焼の気分である。
「華道部だけど、何?」
つい最近まで話したことのないハヤトに、なんで声をかけられるのだろう。
「あー、その…」
「ん?」
「そのうち作品を描かせてくれないか?」
「はい?」
「あの、友井の生けた花を、俺が描くって言うか、そんなの」
ハヤトはぼそぼそと、それでも一生懸命に訴える。
何か思うことがあるんだろうか。
「まぁ、いいけど。テスト終わるまで生けるのはないよ」
「じゃあ、テスト終わってからでいいから」
「わかった」
ネネは答える。
ハヤトは心底うれしそうに笑った。
それは、とてもきらきらとしている。
このきらきら笑顔は、青春だなぁとネネは思う。
「何でまた花を?」
ネネはたずねる。
ハヤトは言葉を選んで語る。
「なんていうか、美しい形を描いてみたいんだ」
「素人の華道で?」
「花は美しく咲くし、生け花は美しく生けられるし、なんというかな」
「うん?」
「花のように生けられる、友井の華道を描いてみたいんだ」
「なんだそれ」
「ええと、友井が花のようだってこと」
「はぁ?」
ネネは素っ頓狂な声を上げる。
ハヤトも何か口走ったことに気がついたらしい。
ハヤトの顔が見る見る赤くなる。
「あー、その、さいごのは、わすれてくれ」
ぼそぼそ声をちょっと高くして、ハヤトはあわてる。
「まぁいいよ、テスト終わったら、何か生けることもあると思うし」
ネネはため息をついた。
ハヤトは大きく深呼吸して、落ち着いたらしい。
「何でもいいけど、大賞取ったのに描かれるわけか」
ネネはなんだか面白くなった。
自分の生けた花が、どんな視点で、どんな風に描かれるか。
それはとても面白そうなものだと感じた。
「ハヤトの美しさを見せてよ」
「俺の?」
「美しいってことを、ぶつけて描いてほしいよ」
ハヤトは力強くうなずいた。
そうしたやり取りのあったあと、
ネネは昇降口で靴を履き替え、ハヤトと別の道を行き、
家路を辿る。
バスを待ち、バスに乗り込み、揺られる。
いつもの家路のさなか、ネネは考える。
ネネなりの美しいという表現。
どんな花がいいだろう。
どんな作品がいいだろう。
ハヤトは何を美しいと思うだろう。
野暮といわれるネネの心に、花が咲いたような気がした。