ネネはドライブを慰める。
頭の中で泣きじゃくっていて止まらない。
幸せすぎるのが、どうも怖いらしい。
幸せですと開き直ればいいのに。
ドライブは幸せすぎのボーダーラインが低いのか、
どうも小さなことで幸せすぎらしい。
ドライブは、まじめすぎるんだろうか。
「とにかくさ、一緒にいようよ」
ネネは、そう言葉をかける。
「いつまで一緒なのか、わかんないんだから」
ドライブはしゃくりあげながら、うなずいた。
「ん、それじゃ、お風呂入ってくるから」
『わかったのです』
ネネはドライブをひとなでして、浴室に向かった。
入浴剤の匂いのする浴槽へつかる。
なんだか知らないけれど、ちょっと落ち着く。
ぼんやり考える。
通り魔をばら撒く存在。
ネネの前に歩いている存在。
タミの奇怪な占い。
タミの占いはよくわからないけれど、
通り魔は、それっぽいものに遭遇しているし、
前を歩く誰かもいるはずだ。
そして、久我川ハヤトの姿をとった、
偽の線の一件。
あれは器屋がいなかったら、焼かれていたのかもしれない。
ネネの意識から、久我川ハヤトを選んだのだろうか。
それとも、朝凪の町で久我川ハヤトがいるのだろうか。
「ハヤトねぇ…」
ネネはハヤトを思い浮かべる。
少しひょろりとしていて頼りないかなと思う。
特徴的なパーツもないが、
意志の強さがあるとも思えない。
「教室だからかな」
ネネはぼんやり考える。
大賞を取ったという絵。
美術室ではハヤトは違う顔を見せるのかもしれない。
そして、華道を描かせててくれというハヤト。
どんな目で花を見るのだろう。
あのハヤトが朝凪の町にいるのだろうか。
何のためにどうしてとも考えたが、
ネネ自身、線を辿る以外に目標が薄い。
何のために辿るのだろう。
ネネは浴槽で大きくため息をつく。
「わかんないこと多いなぁ」
テストも近いし、ハヤトもタミもわかんないし、ドライブは泣くし、
ネネはざばざばと顔を洗う。
考えすぎは肩が凝る気がする。
高校生で肩こりに悩むなんて、
それはなんだか年をとりすぎている気がする。
そうでなくても、ネネは肩を張っていることが多い気がする。
世の中全て敵!
そんなのがネネの内側にある気がする。
隙を見せない!
ネネの意識はいつも張っている気がする。
気負っているとでも言うのだろうか。
朝凪の町でもこんな風だったかな。
ネネは、浴槽で手を伸ばしてみる。
疑わない感じを思い出す。
みんなそれぞれに職を持って、疑わない感じ。
それもいいなとネネは思う。
しばらく浴槽でのんびりして、ネネはお風呂を上がる。
寝巻きに着替えて部屋に戻ってくる。
『いい湯でしたか?』
ドライブが頭の中に話してくる。
「うん、いろいろ考えてて」
『まぁ、お風呂はゆったりするものですよ』
「そうだね」
ネネは答えて、パソコンの電源を入れる。
「今日も巡回先をちょっと回るよ」
『巡回先ですか』
「うん、いつもみてるとこ」
『なるほどです』
ネネはドライブを肩の上に乗せると、
キーボードをたたき出した。
ネットの上でも肩肘張っている気がするな、と、ネネは思う。
お風呂で思っていたことの続きだ。
『肩肘張ってますか?』
ドライブが考えを読んで話しかける。
「うん、なんだか誰にも隙を見せないでいたいなと」
『みんなの前では、それでいいかもですけど』
「けど?」
『私の前では、肩肘張らなくてもいいのです』
「いいの?」
『そのほうがいいのです』
「いきなり、そうできるものでもないよ」
『大丈夫なのです』
ドライブは宣言する。
『ネネがずっと一緒にいてもいいならば、私はいつも一緒にいます』
ドライブは言い切ったあと、くしゅくしゅと泣き出した。
『ずっと一緒で、いい、なら』
泣き声でドライブは言おうとする。
ネネは肩のドライブにそっと触れる。
「ありがとう」
ドライブは、くしゅくしゅ泣いている。
「いつまでも一緒だといいね」
『は、い』
「今度の朝も一緒に朝凪の町に行こうね」
ドライブはネネの肩で何度もうなずいた。