ネネはネットサーフィンをする。
ドライブを肩に置いたまま。
キーボードを叩き、マウスを操る。
ネットをめぐるだけなら無駄箱一号でなくてもいい。
『まぁいいでしょう』
ドライブが考えを読む。
「そんなものかな」
『そんなものですよ』
ネネはクリックして画面を展開させる。
更新のありなしを調べる。
巡回ソフトでも使ったほうがいいだろうか。
リンクを辿り、巡回。
ニュースサイトをいくつか見る。
事件事故がいつものようにある。
「ドライブ」
『はい』
「ニュースだけで、通り魔の気配とかわかる?」
『近くでないと、わからないですね』
「そんなものか」
『はいなのです』
「海のやつはドライブは大丈夫だった?」
『海のやつ?…ああ、朝凪の』
「うん、器屋と一緒の」
ネネは思い出す。
海から浅海の町に戻ろうとしたとき、通り魔が襲い掛かってきたこと。
ネネをあざ笑う、意思の塊のようなもの。
ネネは心で退けた、らしい。
ネネには自覚はないが、とにかく退けたらしい。
『ネネは強いのかもしれないですよ』
「わからないよ」
ネネはわからない。
自分に何があるのかもわからない。
「自分の先もわからないんだもん」
ネネは乱暴にマウスを動かす。
ぐりぐり回って拍子にどこかをクリックしたらしい。
見慣れないページを表示した。
「ありゃ」
『どうしました?』
「変なページ来ちゃった。ワンクリック詐欺じゃないかな」
『詐欺?』
「ここから先に入るには、お金を払えという詐欺。大丈夫かな」
ネネはそのページを見る。
占いの小部屋と書いてある。
背景が黒っぽく、星をちりばめたように描いてある。
『占いですか』
「そうみたい。なんか占いに縁があるなぁ」
ネネはつぶやくと、占い師のページを閉じた。
『ネネ』
「うん?」
ドライブがパタパタと足を踏む。
『占いに縁があるってなんですか』
「んー、ああ、クラスメイトが占いしてくれたんだ。よくわかんなかったけど」
『ネネの全てをわかっているのかもしれません!危険です!』
「そんなことないよ」
『ありうるのです!』
「ないない。だって漠然としてたんだ」
『漠然と?』
「なんだか隠されたものがあって、手助けがあれば見つけるでしょう」
『はい?』
「そんな感じだったんだ」
『むぅ』
ドライブはうなった。
ネネはブラウザを閉じる。
「そんな感じだから、心配することないよ」
ネネは軽く言う。
間をおいて、ドライブが話し出す。
『朝凪の町にも、占い師がいたと聞きます』
「いた?過去形?」
ネネは聞き返す。
『はい、その占い師は、螺子を死体の目に打ち込んで生き返らせたと聞きます』
「占い師じゃなくて、呪術師でしょ、それは」
『最初は占い師だったようなのです』
「それでドライブは不安だったのか」
『そうなのです』
ネネは巡回を終え、パソコンの電源を落とす。
肩のドライブにそっと触れる。
「そんなにすごいことが出来るのが、浅海の町にいるわけないよ」
『わかりません』
「まぁいいや」
ネネはドライブの寝床の帽子を引っ張り出す。
ハンカチを中に敷いて、簡易ベッドだ。
ドライブを肩から下ろす。
「ドライブも心配しなくていいよ」
『ネネは強いですね』
「そんなことないよ」
ネネは否定する。
「そんな怖いことが、浅海の町にないと、信じたいだけ」
ドライブの聞いた占い師の話。
もしかしたら、通り魔をばら撒いていないだろうか。
カンオケバスや、海のあざ笑う意思。
ばら撒いているのは、以前いたという占い師がやっているのだろうか。
ネネは震えた。妙に怖くなった。
ネネは通り魔に遭遇して、辛くも生き延びている。
『いざというときは、守りますよ』
ドライブが頭の中で宣言する。
「ありがとう、ドライブ」
『私もネネと同じことで怖いんですけど』
占い師。以前いたという占い師。
ドライブが過剰反応した占い師。
『いざというときは、噛み付くくらいしたいです』
「ありがとう」
その夜は電気を消して、眠った。