ネネは線を辿る。
凪いだ海の浜を歩く。
線はいつものようにネネには見える。
渡り靴があるからだろうか。
なんともいえない色をした、はっきりとした線。
ネネが遠回りしたときも、ついてきたらしい線。
偽物があったりするらしい。
ネネの意志さえあれば、線を辿らないこともできるのかもしれない。
ネネはそっと線を外れようとしてみた。
凪いだ浜で、ちょっとだけ方向を変えてみる。
ネネの線は、それをわかったかのように、
少しだけ角度を変える。
「ありゃ」
ネネが一言漏らす。
「ついてくるのかな、この線」
『これはネネの線なのですよ』
ドライブが言う。
「あたしの線、か」
『多分意識が離れないと、ずっとネネの足についてきますです』
「そっかぁ」
ネネは渡り靴の裏を見る。
何にもあるわけでない。ただの靴の裏だ。
「靴のせいではないのね」
『あくまでネネの意志です』
「ふぅむ」
ネネはうなり、思い出す。
久我川ハヤトを見たような気がしたこと。
あれはそういう通り魔の意思みたいなのが働いていたのだろうか。
「ドライブ」
『なんでしょう』
「通り魔をばら撒いている存在があるとしたら」
『ふむ』
「あたしも、そのうち巻き込まれるのかな」
『通り魔に、ですか?』
「そんな感じ」
ネネは立ち止まる。
怖い思いはしたくない。
『勇者もいるですよ』
「勇者が何とかしてくれるわけでもないでしょ」
『それに、出逢った朝凪の町の人は、みんなまともなのですよ』
「そういわれれば、そうだね」
ネネは納得する。
ドライブは続ける。
『ネネは進んでいけば大丈夫なのですよ』
「ありがとう」
汽笛の音がした。
ネネは海を見る。
朝焼けの海に、遠く、大きな船。
ネネは種類はわからない。
遠くに、大きな船。
耳が目覚めたように、さざなみの音をとらえる。
ウミネコの鳴き声も聞こえる。
ネネの心が目を覚ましたような気がする。
寝てたから起きた。その程度だ。
特別な力に目覚めたわけでもなく、
浅い眠りから覚めたような。
まだ夢の続きを見ているような。
深呼吸すると、潮の香りが鼻にはいる。
船は再び汽笛を鳴らすと、ネネの視界から遠くに行った。
船を見届けて、ネネは歩き出した。
線は続いている。
どうやら遠くまで線を見渡すと、
浜から道路に入るらしい。
ネネは歩く。
ざりざりと砂利交じりの足音がする。
『ネネ!』
ドライブが叫んだ。
『うっすらですけど、警報が聞こえます!』
「うそ!」
ネネは感じた。
砂利の中に混じって、かん!かん!と。
まずい!
ネネは走り出す。
何が来るのかわからないが、ここにいては危険だ。
砂利に足を取られる。
スピードがでない。
何かが迫ってくる。
どこから?上から冷たい気配!
ネネは反射的に上を見る。
何かの影らしいものが…笑って…
ネネの心が真っ暗を覚える前に、
金属の音がした。
ネネは突き飛ばされて転ぶ。
影は斬られて霧散する。
ネネのあちこちに砂利まじりの砂がつく。
ネネは意識の切り替えがうまくいっていない。
影?金属の音?
ネネは起き上がった。
そこには、大きな剣を携えた、鎧の男がいた。
西洋の大きな金属の鎧。
頭もフルフェイスですっぽり覆われている。
その手には、大きな剣。
ネネはあちこちを見る。
冷たい影は跡形もない。
『あの剣が斬ったのですね』
ドライブが説明してくれた。
ネネは改めて剣を見る。
曇りのない輝きの剣だ。
ネネは立ち上がり、砂を落とす。
「あなたは誰?」
ネネは問いかける。
「…勇者」
鎧の男はそう答えた。
「噂になっている勇者?」
「他に勇者は知らない」
勇者は鎧でくぐもった声で話す。
表情はわからない。
「とにかく勇者。助けてくれてありがとう」
勇者はぎこちなく、うなずいて見せた。