ネネと鋏師とバーバは、
しばらくお茶に興じる。
昔からそうだったのかと思うくらい、
ネネはバーバのことを懐かしいと感じた。
「それで、友井さんの線は、昭和島に向かっているんですね」
「バーバはそこを目指すように閃かせてくれた」
「空は飛べますか?」
鋏師が問いかける。
ネネは答える。
「ドライブが突風を呼んでくれると思うよ」
「そうですか」
「あたしはそう思うんだけど」
ネネは肩にいるドライブに意見を求める。
『突風で行くことも可能です』
ドライブは答える。
『ただ、どの雲にいるのか、はっきりさせてから行きたいですね』
「なるほどね」
『雲の中は気流がおかしくなりますので』
「ふむ」
『突風という性質上、かなり乱れると思うのです』
「他の強い風に影響されちゃうんだね」
『そうなのです』
ネネは一通りドライブと会話して、
どうしたものかと考えた。
「まず、どの雲かはっきりさせないと、めんどくさいわけだね」
ネネがまとめてみる。
「看板工さんならわかるかな」
鋏師が割り込む。
「うん、線も一回りしてきた感じもあるし、また違う中継点が見つかるかも」
ネネは朝凪の町を歩いてきた感じを思い出す。
遠回りしたが、ある程度歩いた感じだ。
戦闘区域があったりもした。
ネネはそれを思い出して、鋏師に問う。
「戦闘区域って、よくあるものなの?」
鋏師は考えてから、答える。
「朝凪の町のある区画で戦闘があると聞いたことがあります」
「少し前に迷い込んじゃってね」
「線がそこを示していた?」
「わからない、けど、多分変なところ通っちゃったんだ」
「危険ですよ。行ったことないけど」
「しみじみわかった」
ネネは戦闘区域のことを思い出す。
名前のことだけ話した、リディア。
彼は元気だろうか。
バーバがお茶を入れてくれる。
「どうも」
ネネは礼を言って、また、お茶を飲む。
「戦闘区域かい」
「うん、迷い込んだことがあって」
「心のそこから戦いを望むものは少しだよ。ほんの少しだよ」
「そうかもしれない」
ネネもそう思う。
戦って戦って、生き残ったら次の戦闘区域なんて、つらいと思う。
「だから狂わせる線が絡んでいるのかもねぇ」
バーバはつぶやいた。
ネネは反応する。
「狂わせる線?」
「そうだねぇ、行くべき線に絡み付いて、やりたくないことをしてしまう線」
「うん」
「何というのかは知らないけど、そんな線が絡んでいるんでしょうねぇ」
ネネはバーバを見る。
バーバの顔はしわくちゃで、いつもと変わらない顔をしているようにも見える。
でも、その奥には何らかの痛みがあるようにも見えた。
「レッドラムの線かもしれないね」
鋏師が口を挟む。
ネネもそう思う。
「レッドラムの線がいずこから出てきていずこへいくのか、わからないけど」
「うん」
「レッドラムの線に、何らかの意思があるのかもしれません」
「そうかもしれないね」
ネネはイメージする。
朝凪の朝焼けの町。
その影から、レッドラムの線が湧き出る感じ。
何らかの意思の働きで、
望まない方向へと線を摩り替える、良くない、線。
町の影がそんな意思を持っているのかもしれない。
その影はどうして。
ネネの中にイメージが加わる。
溶かされたかもしれないという、占い師。
ドライブが怖がっていた、占い師。
町に溶かされたというならば、
町の影で占い師は生きているのかもしれない。
いや、生きているというのはどうかと思うが、
とにかく、怖いものが町の影にあるような、
そんな気がした。
「お茶、ご馳走様」
ネネは湯飲みを置く。
「さて、どの雲が昭和島なのか、看板工さんに聞きに行こう」
「一緒に行きますか」
「うん」
ネネと鋏師が席をたって、玄関へと歩き出す。
バーバはその二人についていく。
玄関で靴をはき、とんとんと鳴らす。
「それじゃおばあちゃん。いつかまた来るね」
バーバは、満面の笑みを浮かべ、
「まってるよ」
と、答えてくれた。