ネネは学校にやってきて、
自分の教室、自分の席に座る。
テキストをしまってぼんやりする。
教室をぐるっと見ると、昨日のような人だかり。
佐川タミのあたりだ。
黄色い声、黄色くない声も混じって、
タミの占いが当たっているのどうのこうのとやっている。
ネネはぼんやりする。
渡り靴は昇降口にしまったし、
今のネネはただのネネ。
線も渡れないネネだ。
未来も見えるタミとは違う。
ネネは教室の後ろの黒板を見る。
テスト範囲と、テストまであと二日!と書いてある。
あと二日だっけかとネネは思う。
誰かが気がついたらしい。
黒板消しであと二日を消すと、
明日テスト!と、書き換えた。
そっか明日だとネネは思う。
ネネは適当にテキストを取り出した。
復習しなくちゃなぁと思う。
「佐川さん、テストのやまって出来る?」
ネネの耳にそんなことが届く。
ネネは興味なくテキストを見ていた。
「いくら佐川さんでも無理でしょ」
「出来たら勉強いらないよね」
などと声が上がるなか、
「できるわよ」
と、タミの声がする。
ネネはちょっと人だかりを見た。
うそ、まじ!などと声が上がっている。
「何かいらないものを代価にすれば、簡単に」
「いらないもの?」
「ええ、いらないものでいいの」
タミの優しそうな声が言う。
ネネはなんだか怖くなった。
「んー、それじゃ後ろの黒板消し!」
誰かが宣言した。
「そんなもんでいいのかよ」
「もっといいものじゃないとだめだろー」
また声が上がるなか、
「黒板消しね」
と、タミが真剣に宣言した。
優しそうな声なのに、何か怖い。
ネネは人だかりを見つめる。
「それじゃ、黒板消しを代価に、占いを始めるわ」
人だかりは、しんとなった。
ネネもだまった。
教室が異質な空気に包まれた。
ネネはなんだか通り魔を思い出す。
あざ笑っていたり、熱波を飛ばしたりする。
カンオケバスだったりするあれ。
タミのカードの音が響く。
教室はしんと静まり返ってしまっていた。
「出たわ。何かメモできるものあるかしら」
タミが静けさの中、誰かに問いかける。
人ごみははっと動き出す。
ルーズリーフがないか、シャーペンはないかとざわめきだす。
一通りざわめいて、タミの元に筆記用具が届いたらしい。
タミが何かを書いている音がする。
「とりあえず、地理の解答を書いておくわ」
タミがメモを渡したらしい。
人だかりが大騒ぎになる。
「他に何かやまがほしいなら、代価を払ってくれればやるわよ」
ネネは想像する。
タミはきっと笑っている。
笑っているけれど何か怖い。
ネネはなんとなく、後ろの黒板を見る。
さっき誰かが書き換えたときのように、
後ろの黒板には、明日テスト!の文字。
でも、黒板消しはない。
いつの間にか消えている。
ネネは少し寒気がした。
朝に感じた風邪を引いた感じではない。
怖いものを相手にしている感じだ。
タミは怖い。
ネネはそう感じている。
人だかりは、俺のペン一本とか、
ノート一冊とかを代価にして、
タミにやまを占ってもらっている。
黒板消しのように、いつの間にか消えてしまうのだろうか。
消えるなどと思っていないのだろうか。
タミにそんな能力がないと思っているのだろうか。
普通思わないと、ネネも思う。
それでも黒板消しは消えている。
知らないうちにノートもペンも消えるのかもしれない。
タミの占いは怖い。
代価をもらって占うのは怖い。
タミは何かを持っている。
何か、能力みたいなものを。
ネネは漠然とそう感じる。
だからネネが何を出来るというわけでもない。
ドライブもいないし、ただの高校生だ。
そして、タミの行っていることは、ただの占いだ。
法律で処罰とか、倫理でどうこうとか、
そういう問題のものではない。
それでもネネは怖いと感じる。
なぜだかはうまく言えなかった。