午後の授業も終え、予備授業も終えて、
ネネは帰る準備をする。
もそもそとテキストを入れて、
昇降口で渡り靴を履く。
あれからいろいろ考えたが、
ネネがタミに口出しできる立場ではない。
そして、タミには、よくわからないが、
消せる力を持っているのかもしれない。
(消しているのとは違うかな)
ネネは思い直す。
タミは代価を得て、何かの力にしているような気がした。
テストの解答を得るのなんかは、
微々たる力のような気がした。
ネネはそこまで思って、数日前の自分を思う。
ドライブなんかが来る前の自分。
その自分だったら、解答をおぼえるだけで済ましていたと思う。
何かを代価にして、適当にこなせるようにしていたと思う。
今はどうだろう。
少なくとも、自分でがんばってみようと思っているような、そんな気がする。
タミの解答は、当たっているのだろうか。
あたっていると感じたから、あの子は倒れたのだろうし、
あたっていると感じてるから、みんなが占いしてくれというのだろう。
「なんだろうね」
ネネはぼそっとつぶやく。
靴を履くと、歩き出した。
お腹が空いた中、バスを待つ。
晩御飯はなんだろうなと考える。
いつものバスに乗り込む。
ふと、ネネは一つ気がつく。
誰かから回ってきた、タミの解答一覧を持ってきたようだ。
ネネは鞄を開いてみる。
結構適当に詰め込まれた中、紙がひとまとまりになっている。
一枚見てみるが、
記号や専門用語。
ぱっと見ただけではわからない。
(これが占いで得る解答かぁ)
ネネはちょっと驚く。
あてずっぽうでもこんなに書けるものじゃないかもしれない。
タミなりの自信があるのかもしれない。
(ドライブに確認してもらうか)
ネネは思い直すと、解答を鞄に入れなおして、また、バスに揺られた。
商業施設のあたりから、
住宅街のあたりへ。
住宅街に入ったあたりで、
ネネはいつも降りますボタンを押す。
いつものようにそうして、降りる。
朝凪の町を思う。
浅海の町と似ているけれど違う町。
「昭和島」
そう、今度の朝焼けで、ネネは昭和島に行くはずだ。
ネネは暗い浅海の町の空を見る。
夜が来ている。
晩御飯を食べたり、眠ったりしている夜だ。
これが朝焼けになるとき、
ネネは野暮な端末時計で朝凪の町に飛ぶ。
そして、ドライブの突風で空を行くのだ。
そこまで思ってネネは考える。
タミが何かを代価にするのと同じくらい、
ネネの朝には現実味がない気がする。
夢をみているんだと言われそうだ。
それでもネネは経験していると思う。
多分、ネネは経験しているのだ。
ネネは家にかえって来る。
「ただいま」
いつものように、ボソッと。
玄関で渡り靴を脱ぎ、上がる。
「おかえり、鞄置いてきたらご飯よ」
「はい」
ネネは答えて、鞄を置きに二階へ上がる。
部屋のドアを開けて滑り込む。
「ドライブ」
ネネは呼びかける。
無駄箱一号の陰で、ちりりんと音がする。
ネネは無駄箱一号に駆け寄る。
陰からドライブが顔を出す。
『おかえりなさいです』
「うん、ただいま」
ネネは鞄をおくと、開いてタミの解答を引っ張り出した。
「ちょっと見てほしいんだけど」
『なんでしょう?』
「学校で占いをしている人がいる」
『言ってましたね』
「占いが、おかしなことになっている気がする」
『おかしな?』
「代価を払って、テストの解答を占っているよ」
『昨日とは違いますね』
ネネは思い出す。
昨日はもっとタロットで漠然としたものを占っていたような。
「とにかく、ちょっと見てほしいんだ」
『わかりました』
ネネは机の端っこに解答を置き、
ドライブはそこに飛び乗った。
「それじゃ、晩御飯食べてくるね」
『はいなのです』
ネネは部屋から出ると、階段を降りた。
親もそろっての晩御飯。
今夜はチャーハンだ。
ワンタンスープもある。
いただきますと言って、
ネネは温かいそれをお腹に入れる。
いつものように、おいしい。
おいしいものを食べている間は、
ネネは不安を忘れられる気がした。