晩御飯の後片付けも終え、
ネネは渡り靴と、失敬した角砂糖を持って二階の部屋に戻る。
机の上にはドライブがいて、
なんだか考え込んでいるように見えた。
「ドライブ」
ネネは呼びかける。
「何か感じた?」
ネネは渡り靴を置くと、椅子に座った。
『なんだか怖いのです』
「そう感じる?」
『はいなのです』
「それじゃ、どうな風に怖い?」
『うまくいえませんけど…』
「ふむ」
『言えませんけど、怖いもののかけらのような気がします』
「なるほどね」
ネネは椅子の背に重心をかける。
ギィと野暮な音がした。
「ドライブは、占い師が怖かったよね」
『はい、死者を復活させたりするのです』
「占い師と占い屋は違うよね」
『占い屋はバーバです』
「その解答を占ったのは、多分占い師に近い」
『そうなんですか』
「思っただけ。そして、ドライブの感じている占い師に近いと思うんだ」
『ふぅむ』
ドライブも考え込む。
「まぁ、角砂糖食べるといいよ」
ネネは片手に持っていた角砂糖をドライブにあげる。
ドライブはぽりぽりとかじりだした。
『あー、幸せの味』
「そりゃよかった」
ネネは微笑む。
『ネネ』
「うん?」
『そんな微笑みも出来るんですね』
「はい?」
『いつも野暮な顔ばかりじゃなくて、にっこり笑うといいのです』
「意識して出来たら世話ないよ」
『でも、にっこりネネはかわいいのですよ』
ネネはぷいとドライブから目をそらした。
『そのうちネネのよさをわかる人が現れるのです』
「それは占い?」
『螺子ネズミの勘です』
「そりゃどうも」
ネネは顔をそらせて、ぽつぽつ考える。
久我川ハヤト。
命を代価にすることに、多分怒ったらしい。
ネネもいかがなものかと思ったが、
久我川ハヤトのように怒れるものじゃないかもしれない。
家に、おじいちゃんとかが、いないせいかもしれない。
ネネはハヤトのことが気になった。
普段どんなことをしていれば、大賞取れる絵なんてかけるんだろう。
そして、華道を描かせてくれというとき、
どんな花をいければハヤトは描きやすいだろう。
そして、どんな風に描かれるだろう。
『くがかわはやと?』
ドライブが考えを読んだらしい。
「クラスメイト」
ネネが一言だけ説明を入れる。
『それは恋ですか?』
「違うと思う」
『残念なのです』
「何が残念?」
『ネネに春が来たかと思ったのです』
「残念でした」
ネネはドライブに向き直り、角砂糖をかじっているドライブをつついた。
「しばらく春なんか来ませんよーだ」
そして、ドライブとネネは笑い出す。
なんだかおかしくなった。
そんなやり取りをして、
ネネは少し復習と、ネット巡回を少しする。
そして、風呂に入って寝巻きに着替える。
一応朝のあたりに目覚ましをセットして、
ドライブの寝床を作り、
ネネとドライブは寝床につく。
『ネネは恋人は欲しくないですか?』
「今のところいらない」
『勇者のような人でもですか?』
ネネの脳裏に幼いネネの泣き声が走る。
泣かすやつは勇者じゃない。
ネネは勇者になりたかった。
「勇者はどうだろうね」
『あこがれですか?』
「わかんない。そういうものかもしれない」
ネネは曖昧に答える。
ドライブもなんとなくわかったらしい。
『ネネが勇者でもいいと思うのです』
「なれたらいいね」
『そのためには、今のネネも受け入れるといいと思うのです』
「今のあたしも?」
『そう、今も昔も全部ひっくるめて好きになるのです』
「無茶言うなぁ」
ネネは心底そう思った。
昔の自分も今の自分も好きになりにくい。
何でもかんでも嫌い嫌い。
周りを好きになるのはできそうだけど、
自分の中まで、なかなか好きになれない。
『とにかく今度の朝は突風に乗るのです』
「昭和島だね」
『そうなのです』
ネネは思う、どんなところだろうかと。
『おやすみなさいです』
「おやすみ、ドライブ」
ネネは部屋の明かりを消した。