ネネは七海をよくよく見た。
ふと頭に思い浮かんだ単語が、
古い飛行機乗り。
リンドバーグとかが、頭に浮かんだ。
大きなゴーグル、防寒のためにいっぱい着込んでいる。
頭ももふもふした帽子で覆われている。
ネネは思う、生粋の飛行機乗りだと。
「普段は大和を磨くだけの一日ですからね」
「そうなんだ」
「だから、お客が来るとうれしいですよ」
「ふぅむ」
「大和を磨いて、木々に水をあげて、流山さんとご飯を食べて」
「ご飯なんてあるの?」
「自給自足です。島の中にいろいろありますよ」
「そりゃすごいや」
ネネが手放しで驚くと、
七海はちょっと誇らしげに笑った。
「まぁ、昭和島はある程度気象が安定しているので」
「ふむ」
「この中にいれば、それなりに生活できますよ」
「そうなのかぁ」
「それじゃ、案内しますよ。島の中」
「うん、よろしくおねがいします」
「じゃ、ついてきてください」
七海が先にたって歩き出す。
ネネはあとに続いた。
格納庫から、階段を上がる。
そこは窓のいっぱいの通路で、
雲に囲まれているのに、きれいな明かりが届いていた。
ネネは窓から外を上下見てみる。
なるほど、かなり上には太陽光が入るくらいの、穴があるらしい。
突風ではあの高さまで行くのは無理かもしれない。
ネネはネネなりに納得すると、通路を歩いた。
ギィギィと音のする廊下だ。
「こっち側が菜園。向こうが畜産園」
「菜園はともかく、畜産までやったら大変だろうに」
「からくりが全てやってくれますよ」
「からくり?」
「流山さんが作ってくれたんです」
「流山さんって、映画監督でしょ?」
「昭和島の成り立ちにも関わることなんですけどね」
「どういうことなの?」
「流山さんは、一人で映画を取りたかったんですって」
「ふむふむ」
「それで、全て一人でやるために、仕掛けも動きも全てからくりにしたんです」
「それでそれで?」
「映画を撮るためには生きないといけない。だから生活もからくりなんです」
「それで食べ物もからくりが管理?」
「そういうことです」
「監督の執念だね」
「そういうことです」
七海が話を結ぼうとした。
「じゃあ、七海はどうしてここにいるの?」
「実は、泣きついてここに来ました」
「泣きついて?」
七海青年は、ちょっと恥ずかしそうに語りだした。
「戦闘機大和を借りたいと、流山さんが言い出しまして」
「ふむ」
「僕が作って、僕が磨いた戦闘機だったんですよ。大和は」
「そうなんだ」
「誰にも渡したくない。誰にも磨かせない」
「執念だね」
「そしたら、僕も一緒に行くのでどうだと」
「それでここに来たんだ」
「そうです」
「後悔してない?」
「大和がいるから平気ですよ」
七海は微笑んだ。
現状に満足しているようだ。
七海はあちこち紹介していく。
障子で仕切られていたり、ガラス戸だったり、
そのガラス戸がギィギィなったり、
床もギイギイしていたり、
上を見れば、歯車や線が無数に配置されている。
ネネはイメージする。
これは昭和島の神経かもしれない。
七海が紹介してくれるものは、昭和島の内臓のようなものなのかもしれない。
気象から水を得たり、
(これは周囲の雲から得るらしい)
お日様を出来るだけ浴びるようにしたり。
風はさわさわと雲の中を流れている。
穀物の畑も紹介された。
それを粉にするのもからくりだ。
昭和島はなかなか広い。
人が二人がずっと暮らすなら広すぎるくらいだ。
「七海」
「はい」
「流山さんは何をしているの?」
「映画を作っているんですけど」
「けど?」
「ありえないものをありえるように、イメージが迫ってくるように」
「ふむ」
「そんな映画を作ろうとして、あらゆる手法を用いているらしいです」
「らしい?」
「らしいんです」
「みたことないの?」
「ないんですよ。完成したら見せるって」
ネネは自分の線を見た。
七海の紹介してくれてないほうに、線が曲がっていた。
「流山さんに逢いたいな」
「案内しましょう」
ネネは線どおりに通路を曲がった。