ネネは戦闘機から身を起こす。
狭い席にいた所為かもしれないが、
身体がちょっと、ばきばき言っている気がする。
うんと背伸びして、戦闘機の席から飛び降りる。
脚立があったらいいものだが、あいにくそんなものもなく、
ネネはややバランスを崩して朝凪の町に下りる。
車の来ない国道。
いつもの風景だ。
まっすぐどこかの町へ続いているような。
でも、朝凪の町で完結しているような。
この道はどこに行くのだろう。
ネネはぼんやりと国道を見た。
浅海の町では当たり前に車の行きかっていた道。
こっちは静かに戦闘機があったりする。
「ネネ」
七海が声をかける。
「こっちはそろそろ上に戻る。危ないから国道から離れてろ」
「うん、わかった」
七海は戦闘機の中からうなずく。
「送ってくれてありがとう」
ネネは感謝をこめて声を届けようとする。
戦闘機の中で七海が親指を上げて見せた。
ネネも親指を上げて見せた。
七海がうなずいた。
ネネは国道から離れる。
国道が見えるあたりで、戦闘機大和を見る。
戦闘機大和はゆっくりと滑走路の代わりの国道を行く。
移動をすると、向きを変えた。
ゆっくりじりじりと。
そして、エンジンがごうと鳴り出す。
すごいスピードで戦闘機が走り出す。
離れたネネのほうまで爆音が届く。
大きな音を立てて、戦闘機は空中に閃く。
ネネの心の中で七海が微笑む。
多分ぴっと親指を上げて、笑って帰っていったのだろう。
ネネはそんなことを思った。
ネネはほうけたように空を見る。
無数の雲の一つに昭和島があって、
そこに行ってきたらしい。
ネネは夢をみている気分になった。
『夢じゃないですよ』
ドライブがまた、考えを読んだらしい。
『歩いてきたこと、それから過去も、みんな積み重なっています』
「うん」
『それは大切なものなのです』
「過去なんていらないと思うときがあるよ」
『過去があるからネネがいるんです』
「そうかな」
『過去も持って強いネネだから、今ここに立っているのです』
「そっか…」
ネネは自分の線を見る。
過去に歩いてきた線。これから続いている線。
ネネの線。
そして、渡り靴を履いているから見える、
どこかと交わっている線。
過去と未来が交わっているところ。
それが今ネネの立っているところなのだろう。
現在とは絶えず過去になっていくこと。
現在とはずっと未来だったこと。
ネネは時間のこととかはよくわからない。
それでも、小さなネネが願っていた未来がここにあるし、
小さなネネを見つめているネネもここにいる。
小さなネネは勇者になりたかったのだろう。
今のネネは勇者じゃない。
今のネネが未来のネネを見ようとする。
それは靄がかかって、ぜんぜん見えない感じがした。
未来なんてそんなものだ。
確たるものが何もなくて、過去ばかりが増えていく。
増えていく過去の上に立って、星を見るように靄の向こうを占う。
未来が見えるってどういうことだろう。
ネネはふと、バーバを思い出した。
それから、佐川タミを思い出した。
占い屋のバーバ、占い師のタミ。
未来が見えるのは、タミのほうだろうか。
ネネは思い出す。
タミは解答を占っていた。
当たっていたらどんなことになっちゃうだろう。
勉強しなくて解答だけって、それは意味のないことのように思われた。
あるいはと思う。
解答が当たっていたら、みんなタミにいろいろ占ってもらうだろうか。
タミの狙いはそこかもしれない。
神がかり的とか、そういうのを狙っているのかもしれない。
昔々の巫女のような。
神のお告げのような。
タミは何を狙っているのだろう。
『ネネ』
「うん?」
『占い師ですか?』
「ドライブの言う通りかもね」
『わかりませんよ』
ドライブはネネに語りかける。
『未来はいつだって、靄の中です』
「うん」
ネネはうなずいた。
そして、自分の線を見定めると、歩き出した。
今出来るのは、こうした一歩を積み重ねていくだけ。
ネネは歩く。先を目指して。