心の奥に小さなネネがいる。
ネネのずっと心の奥。
泣いている。
勇者になれないから。
今のネネが、小さなネネを覗き込んでいる。
覗き込んで、途方にくれている。
どうしたら泣きやむだろうか。
勇者になれればいいのだろうか。
男だけが勇者になれるといわれているし、
小さなネネが、いきなり勇者だといわれて、
納得できるはずがない。
ネネの心の奥で、泣き続けている小さなネネ。
レディは、ネネが泣き止めば花が咲くという。
どういうことだろうか。
『ネネ』
ドライブが話しかけて来る。
『小さなネネも、きっと泣き止みますよ』
ドライブは時折ネネの考えを読む。
「ドライブが泣きやめさせてくれる?」
『それはだめですよ。ネネ自身が泣き止んでくれないと』
「そりゃ困った」
ネネはおどけて言ったつもりだが、
心の奥では泣き声が響いている。
悲しいと思う。
認められないということに繋がっているのかもしれない。
小さなネネは途方にくれて泣いている。
その気持ちがあるから、今のネネも途方にくれる。
『ネネ』
「うん?」
『時間です』
「時間、ああ…」
野暮な腕時計のような端末を見ると、
何か赤い表示が出ている。
「あ、戻らないとだめなんだね」
レディが表示を見て、声をかけて来る。
「どうよ、使い勝手は」
「すこぶるいいです」
ネネが答えると、レディは心から笑った。
「そりゃよかった」
ネネも自然と笑顔になる。
「それじゃ行こうか」
『はいなのです』
ネネは端末をいじる。
そして、エンターキーを押す。
端末に光の粒子が集まり、端末から放たれる。
そこには光の扉。
見慣れた光の扉。
「それじゃ行きます」
「またね」
レディが手を振る。
ネネはうなずいた。
ネネは扉の取っ手を持つ、そんな感覚を持つ。
音なき音で、扉が開いた感覚を持つ。
ネネは扉をくぐった感じがした。
何かが交わっている感じがする。
ネネは漠然とそう思った。
光の扉を開いたら、いつもはベッドにいるじゃないかと。
ネネは目を慣らす。
真っ白い空間の中にいる。
ネネは耳をすます。
泣き声が聞こえる。
聞き覚えのある泣き声。
小さなネネの声だ。
ネネは泣き声のもとを探す。
渡り靴の足音も聞こえない。
ネネはおかしな空間を走る。
なんだかネネの心の奥の場所と、
どこかが繋がっているような気がする。
光の扉を開いた先だから、
ネネの心と似たところが繋がっているのかもしれない。
何かが交わっている感覚は、そこからかもしれない。
ネネは小さなネネを見つける。
勇者になれないといわれた、小さなネネ。
今のネネが歩み寄ろうとする。
そこへ、金属の音がした。
小さなネネのもとに、重たげな鎧をつけた勇者が現れた。
勇者だ。
あの鎧の姿は、朝凪の町の勇者だ。
ガシャン、ガシャンの鎧の音がする。
小さなネネも、今のネネも、あっけにとられる。
「泣かないでください」
くぐもった声がネネに向けられる。
視線がわからないが、多分小さなネネにあてられたものだろう。
「勇者は大変ですから、勇者をちょっと助けるくらいでいいんですよ」
「ゆうしゃになりたい」
小さなネネは譲らない。
「勇者はいろんなものを壊すのです」
「壊すのは、やだ」
「だったら、勇者が壊したものを、直してください」
「あたしはそんなことできないもん」
「ネネなら出来ます」
くぐもった声で、勇者が語りかける。
「ネネは花が好きですから、勇者の壊したところに花を咲かせてください」
「そんなことできない」
「できます」
勇者がガントレットでネネの頭をなでる。
「未来のネネも知っています。花が好きだって」
「未来のネネ」
「たまたま扉が重なって、小さなネネに逢えました」
「とびら?」
小さなネネと今のネネが問いかける。
「いつかわかる日が来ます。また逢えたらいいですね」
勇者の声が遠ざかり、
ネネの視界はふっと暗くなった。