途中細かい休憩を挟みながら、
ネネたちはテストを受ける。
他のペンの音が耳につく気がする。
それでもネネはシャーペンを走らせる。
わかるものを解いていく。
心のどこかに負けるもんかという思いがある。
占いが当たっているかどうかはわからないけど、
負けるもんか!負けるもんか!
わかるんだぞ!
勉強すれば、テストくらいわかるんだぞ!
ネネは必死になって解いていく。
終了の合図がある。
解答が集められる。
終わった。
(とにかく、ネネの孤独な戦いは終わった)
そんなことをネネは頭の中でナレーションする。
ぼーっとしている。
周りが見えない。
「きゃあ!」
という声で我に返る。
「委員長!委員長の解答ある?」
「とにかく俺のでいいからさ!」
「なに、どうした?」
「佐川の占いの解答」
「佐川様だろ」
「解答と見比べてみろよ!すげえから!」
「うそ!」
帰りの準備をしていた教室が、にわかに騒がしくなる。
「まじで?」
「まじ!」
悲鳴のような声があたりを満たす。
「みんな、おちついて」
優しい声が一喝する。
佐川タミの声だ。
「この解答は、代価を払った占いだから、当たることが普通なの」
「ペンとか?」
「ペンもそうだけど、もっと心のこもったものだと、当たるわよ」
「あの…」
小声で誰かが言い出す。
「おじいちゃん殺すとか?」
タミが微笑んだのがネネにも見えた。
「殺すのじゃないの。占いの代価よ」
一瞬の間のあいだに、ネネは何かを見た気がした。
冷たい何かを見た気がした。
タミはにっこり微笑む。
「さぁ、今日は遅いから帰りましょう」
タミは宣言するが、生徒たちは許そうとしない。
「これから佐川様囲む集会しようぜ!」
「代価を払えばいいんですよね」
「俺何にするかなー」
「あたし彼の心が聞きたいからー」
囲まれるようにして、タミは去っていった。
ぽつんとネネと、
久我川ハヤトが残った。
「いかないのか?」
ボソッとハヤトがもらす。
「なんか怖いよ」
ネネは思ったことを言う。
ハヤトもうなずいた。
「人間の鎧をまといつつある」
「なにそれ」
「自分の身を守るため、鎧を作ってるように見える」
「あの騒がしいのが?」
「俺は、もっと増幅すると踏んでる」
「どうしてまた」
「テストでいい点取りたいのは、ここのクラスだけじゃないだろ」
「そりゃそうだ」
「この手の噂は広まると怖い」
ハヤトは何かを見ているようにつぶやく。
「占い師は怖いものだ」
「ハヤトもそう思うんだ」
「友井もか」
「うん」
うなずいてから何か引っかかる。
ともい、ともい?
「ハヤト」
「うん?」
「友井って呼んでるよね」
「なんか問題あるか?」
ハヤトはぼそぼそと答える。
何がネネに引っかかってのか見当がついていないようだ。
「人を助けた夢を見たことある?」
「うん?」
ハヤトは考える。
「最近はなんか戦ってるのばっかりだけど」
「だけど?」
「何かを助けたような気がしないでもないけど」
「それ多分あたしだから」
「え?」
「テスト終わったし、そのうち華道をすることもあるし」
「え?」
「そのときはまたよろしく!」
ハヤトは呆然とする。
ネネはおかしくて笑う。
腹のそこから笑う。
ネネはつかつかとハヤトに歩み寄ると、鼻をつまんで見せた。
「もが」
「夢なんて覚えてるもんじゃないでしょ」
「ふぁふゃふぇ」
「うん?」
ネネはつまんでいる手を離す。
「離せって言ったんだ」
「そっか。またつまむ?」
「遠慮しとく」
気がつくと教室には二人しかいない。
「友井」
「うん?」
「…やっぱりいい」
「そっか」
「気にならないのか?」
「言えないことを引っ張り出すこともないでしょ」
「そうか」
ネネはうなずく。
「いつか気分が向いたら言ってよ」
「そうする」
ハヤトはぼそぼそと答える。
このぼそぼその声が、意外と好きかも知れないと思った。