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第73話 鎧

学校でハヤトと別れ、

ネネはバスに乗って帰ってくる。

ぼんやり考え事もするが、

バスに揺られて、もやみたいに、わけがわからなくなった。

(お腹がすいてるのかな)

ネネは思う。

とにかく家に帰ろう。

バスの外でパトカーが走っていく。

事件だろうか。

ネネは考えずにバスに揺られた。


いつものバス停に下りて、

ネネは帰ってくる。

玄関のドアを開いて、

「ただいま」

と、ボソッと。

「あらあらおかえり」

ミハルが台所から顔を出す。

「すぐご飯になるわよ」

「わかった」

やっぱりネネはボソッと答える。

「今日はスパゲティよ」

「ミートソース?」

「ほうれん草とベーコン。あっさりしてておいしいわよ」

「へぇ」

ネネは感嘆の声を漏らす。

ミハルは、ふふんと笑った。

「ランチで食べてね、自分でも再現できないかなってね」

「そうなんだ」

「おいしいご飯を作ってもらいたいなら、おいしいところを食べさせることよ」

ミハルはにんまり笑う。

ネネは、見えないけれど、

なんとなくマモルが困った顔をしてるなと思った。

「それじゃ、鞄置いて来る」

ネネはそっと渡り靴も持っていく。

咎めはないが、不思議だとは思っているだろうなと思う。

まぁいい、言われたらそのときだとネネは思った。


二階へ上がり、自室に入ると鞄を置く。

テキストが入っていて重い。

どさっと言う音を聞くと、自分の中のものも何か放り投げた気がした。

渡り靴も部屋に置く。

そして、ネネはそっと呼びかける。

「ドライブ」

無駄箱一号の陰で、ちりりんと音がする。

ネネはそっと歩み寄る。

「ドライブ」

『はいなのです』

頭に語りかけてくる、鈴を転がすような声。

無駄箱一号の陰から、いつもの螺子ネズミが現れる。

頭に丸いアンテナが耳のかわりに。

身体はネズミで、尻尾が螺子になっている。

つぶらな瞳がネネを見ている。

「母さんが蜂蜜買ってきてくれたみたいなんだ」

『蜂蜜ですか』

「角砂糖とどっちがいい?」

『たまには蜂蜜もいいですね』

「ん、それじゃあとで持ってくるよ」

『他に変わったことはありましたか?』

ドライブが問いかける。

ネネは考える。

そして、話しだす。

「占い師かな、同じクラスの佐川タミって子」

『ふむ』

「信者が増えてるような気がして、怖かったかな」

『信者』

「うん、そんな感じがした。佐川様って」

『ふぅむ…』

ドライブは考え込む。

小さな腕を組んでいるらしい。

『人の鎧ですか』

「うん?」

『占い師は自分の身を守るため、人の鎧を作るものがいるそうです』

「ハヤトも言ってたな、そんなこと」

『自分を守る駒であり、武器であり、鎧であると聞きます』

「そうだね、人は使いようによってはなんにでもなるね」

『信仰があるならば、本当に何にでもなるでしょう』

「怖いね」

『怖いです。その占い師が何を狙っているのか…』

「わかんない。けど、テストの解答でみんなの心をつかんでた」

『ネネはテストはどうでしたか?』

「やれることやったよ。後は採点待ちだよ」

『それはよかったのです』


「ネネー」

階下で母が呼んでいる。

「いまいくー」

ネネは大声で答える。

「それじゃ、あとで蜂蜜もってくるね」

『はいなのです』

ネネはばたばたと部屋を出て階段を下りる。

台所で母が、もう一度呼ぼうかとしている。

「ごめん、テストのこと調べてた」

「あらそう、出来栄えはどうだった?」

「わかんない。けどやるだけやったよ」

「なら大丈夫よ」

ミハルは笑う。

「努力する人が報われる。そういう世界であってほしいな」

ミハルは鼻歌を歌いながら、スパゲティを盛り付ける。

「また近くじゃないか」

テレビのある居間から、マモルの声がする。

「なぁに?」

「事故だよ」

「あらやだ」

「でも、けが人は一人だけらしい」

「あらあら」

「なんでも、事前にそこをよけろと、言った学生がいたらしい」

「なにかしらねぇ…」

ネネの頭にタミがよぎる。

きっと学校だけではないのだ。

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