ネネはネットの巡回をする。
ドライブは相変わらず運動をしている。
ネネは適当にサイトをめぐったり、
ニュースを見たりする。
掲示板も覗く。
変わったことはないように思った。
(一日やそこらで反応あるわけないか)
ネネは思う。
占い師としてチラッとニュースに出た、
佐川タミのこと。
佐川様ということから話題になっていないだろうか。
早いところでは話題になっているかもしれないが、
専用にサイトは、検索したけれど見つからなかった。
表に出ていないのだろう。
ひょうと音がして、ネネの肩にあたたかいものがのっかった。
ドライブだ。
『インターネットですか』
「うん、占い師のこと調べてた」
『何かありましたか』
「普通のことしか引っかからないよ」
『でしょうね』
「とにかく今日のところはこれで寝るよ」
『はい、そうしましょう』
ドライブはネネの肩から机の上に落ちる。
ネネはドライブの寝床をつくる。
帽子とハンカチ。
ドライブはもぞもぞともぐる。
ネネもパソコンの電源を落とす。
伸びを一つ。
また、朝になったら出かけるのだ。
朝凪の町に出かけるのだ。
ネネはベッドにもぐると、電気を消した。
「おやすみ、ドライブ」
『おやすみです、ネネ』
「うん」
ネネは数回寝返りを打つと、心地よい眠気に襲われた。
ふわふわと落ちていく。
雲の中を思う。
夢の傷跡と呼ばれた雲の中。
凪ぎでない雲の中。
七海に乗せられて降りていったそれを思い出す。
夢がかなわなくて、傷になってしまったもの。
それはとても辛い傷だ。
自分の見えるところについた傷の、
どの傷よりも辛い傷だと思う。
将来とか、そういうところに夢があって、
その夢をかなえるために、がんばる人だっている。
けれど、それが傷になってしまうということは、
もう、絶対かなわない、だめなんだという、
そう、烙印のような傷にされているのだ。
ネネの夢の中、雲の中でノイズが走る。
ネネは耳をふさごうとした。
動けない。
何回かノイズがネネを襲い、
ネネはひどく辛い思いをしたような気がした。
傷の悲鳴を聞いた気分だ。
(ごめんなさい、あたしには何も出来ないから)
ネネは雲の中で謝る。
ごめんなさいと、何度も。
「大丈夫です」
不意に、くぐもった声がした。
このくぐもった声は聞き覚えがある。
ネネは夢の中で目を開いた。
雲の中、ネネは何かに包まれている。
ほわほわした心地いいもので、透明だ。
そしてネネの目の前に、
鎧をまとった勇者がいる。
「みんな傷が痛いだけなのです。自分で癒せればここから消えます」
ネネは何か言おうとする。
夢の中なのにしゃべれない。
「悲鳴はそのうち、引き受けます」
(引き受けるって)
ネネが心で問いかける。
「ネネは線を辿ってください」
ネネは線を辿ろうとする。
雲の中、ネネは動き出そうとする。
(勇者…あたしはどうすればいいの?)
「ネネは見つけてください」
(見つける?)
「線を切り替える装置を」
ネネは勇者のガントレットを握ろうとする。
悲鳴を引き受けるということは、
勇者は、つまり、雲の中に落ちてしまうのではないか。
ネネの頭の中でそこまで考えがいたると、
ネネは必死になって身体を動かそうとして、
勇者のガントレットを追う。
身体が動かない。
ぜんぜん動かなくて、もどかしい。
「線を、千の線すら変わる装置を」
勇者はくぐもった声で宣言すると…
ネネの目の前で雲に覆われたような気がした。
「勇者!」
ネネは悲鳴のような声を上げた。
その自分の声で、ネネは目を覚ました。
小鳥の声がかすかにする。
ネネは自分のほほに違和感を感じる。
触れてみると、それは涙。
泣いていたのだ。
勇者が雲に落ちてしまうとき、
ネネはきっと涙を流す。
千の線すら変わる装置。
夢の中で勇者がつぶやいていた。
静かな朝がやってきていた。