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第88話 集団

ネネは教室に向かう。

なんだか騒がしい。

「はいはい、一列に並んでねー」

「本当にあたるんだって!」

「代価がいるらしいよ」

「えー、まじー?」

ネネの教室の前は人だかり。

教師が払ってくれるべきだろうが、

教師まで行列に並んでいる有様だ。

ネネはあっけにとられる。

「こんな具合だ」

ボソッとハヤトが言う。

「こりゃ中に入りづらいわ」

ネネも納得する。

午前中だけ授業の予定だが、

こんな調子で授業が出来るだろうか。

図書室で時間でもつぶすべきだろうか。

欠席は癪だなぁと思う。

「どうする?」

ハヤトが尋ねる。

「チャイム鳴ったら散れるだろうし、それを待つよ」

「そうだな」


二人して廊下で、

チャイムが鳴るのを待つ。

ぎゃいぎゃいわいわい。

集団は占いしてもらおうと詰め掛ける。

ネネは占いを信じていないわけではない。

ただ、タミが怖いように思われる。

タミは何かの力があるような気がする。

以前、占ってもらった、曖昧なものではなく、

もっとズバズバあててきているのは、

きっと何かの力を得ているのだろうと思う。

それが神がかり的なものに見えるから、

こうやって人が来るのだろう。

「友井」

ハヤトがボソッと声をかける。

「うん?」

「佐川はなんだと思う?」

「わかんないけど、この数日で大変なことになってる」

ネネはうまく説明が出来ない。

曖昧な占いが、テストの答えをあてるほどになること。

具体的な占いができるようになる。

そして、代価をもらう。

人の命だったりする。

それはまるで、朝凪の町の占い師ではないか。

占い屋のバーバとは違う、

代価を食っているらしい占い師。

朝凪の町なんて、ハヤトに言ったところで通じない。

ネネは心にしまいこむ。

「友井」

「うん?」

「ファンタジー小説とか読むか?」

「なんでまた」

「別の世界に行くとか言うやつ」

「あんまり読まないけど、設定はわかる」

「別の世界と何かがリンクするとかいうのはどうだ?」

「佐川さんが別世界とリンクしてるって?」

「今や佐川様だけどな」

ハヤトが集団に目をやる。

ネネも見る。

ニュースでチラッと話題が出た所為か、

それともテストがあたっていたのか、

どんどん集団が膨れていく。


ネネはハヤトの仮定を思う。

朝凪の町の占い師。

浅海の町のタミ。

なるほど、つなげれば納得いく。

現にまたいでいるネネがいるわけだ。

タミが二つの世界をまたいで、

何らかの力を得ているとすれば、

神がかり的にあたるのも、心を握るのもわかる。

チャイムがなる。

それでも動かない集団は、

教師が蹴散らしていった。

ばらばらと集団が崩れる。


「入れるかな」

「どうだかな」

ネネとハヤトは廊下からぽつぽつと歩き出す。

さすがに止めるものもなく、二人はいつもの席に着いた。

朝のホームルームが始まる。

担任のいつもの話。

特筆することのない朝。

そこに、いつものことでないこと。

「佐川」

担任がタミを呼ぶ。

「はい」

「ニュースに名前が出たらしいが、なんか困ってることはあるか?」

タミはにっこり微笑んだ。

ネネが感じるところでは、

あたたかい微笑の下が寒い。

「何にも困ってることはありません」

「そうか、困っていたらいつでも相談しなさい」

「はい」

担任は最後にそれだけ言い残すと、ホームルームを終わりにした。


タミは微笑んでいる。

得体の知れない力のようなもの。

何かの力があるような気がする。

ネネにはそれがわからない。

「佐川様」

「佐川様」

ひっきりなしに呼ばれている。

「だめよ、授業が始まってしまうわ」

タミは笑う。

困ったような顔をしているが、

心の底に不安を持たせる気がする。


チャイムがなる。

授業が始まる。

ぶつくさ言いながら生徒が席に着く。

そのうちチャイムも無視するかもしれない。

ネネはそんなことを思った。

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