ハンバーグ屋は満席。
お昼過ぎてもなかなかお客が引かないみたいだ。
紙に名前と人数を書いて待つ。
「おなかすいたー」
言ってもしようのないことを、ネネは言ってみる。
「もうすぐよ」
ミハルは小さい子どもをたしなめるように言う。
ネネはなんだか、うれしくなった。
大人になりたいけど、やっぱりこの親の子どもでいたいと思った。
「友井様、三名様」
店員から声がかかる。
「お席の準備が出来ました」
きびきびした店員に導かれ、ネネたちは席についた。
三人はランチハンバーグを注文して、
席で待つ。
程なくしてセットのサラダとスープがやってくる。
ネネはスープをすする。
すきっ腹に染み渡る。
「こほん」
マモルが咳払いをしてみている。
何か言いたいらしい。
「えー、あー、ネネ」
「はい」
「あー、うまいか?」
「スープおいしいよ。お父さんも飲んだら?」
「うん」
マモルはスープを湿らせる程度飲む。
「そうじゃなくてな、うー」
ミハルがくすくす笑っている。
「ネネの気になる人ってどんな人って、聞けばいいじゃないの」
「言っちゃだめだよ!僕が聞こうとしていたんだから!」
マモルが駄々っ子のようにおこる。
今朝あたりネネが言っていたことを引きずっていたらしい。
ちょっと気になる人がいる。
その一言だけを。
ネネは笑い出す。
お昼までに普通忘れちゃうよと思う。
「うん、隠してもしょうがないか」
ネネは一通り笑ったあと、少し顔を引き締める。
マモルも真剣な顔で見ている。
「絵がうまいらしいんだ。どこかの大会で大賞とったって」
「どんな絵を描くんだ?」
「わかんない。けど、そのうちあたしをモデルにして描きたいって」
「モデルって」
「華道しているのを描きたいんだってさ」
「その、それだけか?」
「あとはそうだな、佐川様騒動に乗り切れなくて、浮き気味同士かな」
「あれか、ニュースの」
マモルは覚えている。
佐川様のことが少ない電波に乗ったこと。
「多分その佐川様。そういう騒動に乗り切れなくて、時々しゃべってる程度」
「その、ふしだらなことはないか」
「なんにも。しゃべってるだけ」
「そうか…」
「お父さん、もういいじゃない」
ミハルがたしなめる。
「ネネは、うそついてないわよ」
「女同士でわかるだろうけど、僕はわかんなくて心配なんだよ」
マモルのそれは駄々とか泣き言に近い。
年頃の娘を持つ親は、みんなこうなのだろうか。
「あ、ハンバーグ来たよ」
ミハルが話題を変える。
「お待たせいたしました。ランチハンバーグです」
店員が器用にテーブルに並べていく。
じゅうじゅう肉の焼ける音。
食欲をそそるにおい。
見ただけで、かぶりつきたくなる。
「それじゃ、いただきます」
挨拶をすると、家族してハンバーグに取り掛かった。
肉汁のはねる音。
焼けたハンバーグ。
百点満点だとネネは思った。
ハヤトがここにいれば、やっぱりおいしいって言ってくれたかな。
ネネはなんとなくハヤトを思う。
気になる存在ではある。
異性でもある。
でも、春は来ないし恋人でもない。
ハヤトの家族ってどんな家族だろう。
父親がいないといっていた。
離婚だとかって。
あったかいご飯は食べられているのかな。
家族で何かおいしいもの食べてるかな。
ネネは考えながら、ハンバーグを口にする。
あつい!
はふはふ言って飲み込む。
ライスで口を整える。
うっかりしていたらしい。
考え事しながら食べるものじゃない。
「おいしいか?」
マモルが問う。
「うん、おいしい」
ネネは即答する。
「同僚の方ってセンスいいのね」
ミハルが話しかける。
「そうだな」
「またおいしいところ聞いたら、連れて行ってね」
「そうだな」
「ネネの気になる人も連れて」
「そうだ…おい!」
「ふふ、冗談よ」
「心臓に悪いよ。まったくもぅ」
ネネは笑った。
こんな親が大好きだ。