マモルが取り出したチラシを、ネネもミハルも見る。
「あなたも未来を見てみませんか?」
ネネが大きな見出しを読み上げる。
「未来が見えるらしいよ」
マモルが新聞を置いて、食卓につく。
「外で読んでいた限りでは、教主様が未来を見るそうだ」
「教主様」
ネネは聞き覚えがある。
浅海の町でないところで。
「で、教主様が神になられると、国や世界を動かせるらしい」
「すごい単位の話ね」
言いながら、ミハルは卵を焼きに戻る。
「で、手始めにこの町で広めようというチラシらしいよ」
「世界を動かそうというには、小さいところから始めるんだね」
「わからないけど、小さいことからこつこつなんだろう」
ネネはチラシを見る。
教主様はあなたの未来を見ます。
教主様は、やがて神になられます。
このときにあなたも教主様に占ってもらっては?
宗教団体とそんなに変わらない気がするが、
あくまでも教主様の占いがメインらしい。
「ネネ、興味でもあるのか?」
「違うよ。占いしているクラスメイトを思い出しただけ」
「ああ、言ってたなぁ」
「このチラシには出てないけど、クラスメイトかなぁと思っただけ」
「狭い町だけど、そこまで重なることもないだろう」
「だよねぇ」
ネネはそう言うが、心のどこかで彼女を思う。
代価を得て占いをする、彼女。
「卵焼けたわよ」
「そうか、それじゃ朝ごはんにしようか」
チラシはどけられ、いつもの朝ごはんになった。
朝ごはんの後片付けをして、茶を飲んだりする。
「ネネは占いとか信じるの?」
ミハルが声をかけてくる。
「なんでまた?」
「クラスメイトの子を思い出したらしいから」
「気にはなるよ」
ネネは答える。
「いい結果でも悪い結果でも、心のどこかには残ると思う」
「そうねぇ」
「母さんは?」
「あたし?あたしも気になるわねぇ」
ミハルも答える。
世間話の延長のように。
「全部信じるわけじゃないけど、やっぱり何か残る気がするのよ」
「そうなんだ」
「そうなのよ」
ネネは湯飲みを回す。
ぐるぐるした中でネネがうつる。
「父さんは?」
「ん?」
「占いってどう?」
「会社の女の子によく言われるね」
「占いを?」
「そう、生年月日とか、血液型とかな」
「聞くと占いになるの?」
「相性とかがわかるらしくてな」
「何でまた父さんが?」
「きっかけだよ。要は。話しかけやすくするための話題だよ」
マモルは茶をすする。
「話題なのか」
ネネはポツリとつぶやく。
あの彼女は、話題で占いをしているわけじゃない。
代価を食うために占いをしていると、ネネは思う。
生業とも違う。
あの彼女は怖いものだ。
「チラシのは、話題じゃないよね」
ネネはぽつぽつと話す。
「そうだなぁ。新興宗教に近いだろうな」
「幸せのために何か売りつけるのかしら」
親はイメージでものを話す。
ネネも似たようなイメージを持つ。
「教主様かぁ」
「ネネも占ってもらう?」
ミハルが湯飲みに茶を継ぎ足す。
「やだ。何か飲み込まれそうな気がする」
「そうねぇ、ただじゃないでしょうしねぇ」
「だから、やだ」
「賢明ねぇ」
ミハルはころころと笑った。
「今日はどうするんだ?」
「町のほうを少し歩こうかなと」
「テストも終わってるし、遊んできなさい」
「うん」
「でも、遅くならないうちに帰ってきなさい」
マモルがまじめに言う。
「最近は物騒な事件もあるし、新興宗教なんかに関わって…」
「お父さん、言わなくてもネネはわかってるわよ」
「それでも言っておきたい。早く帰ってきて…」
「はいはい、ネネ、準備して行っちゃいなさい」
「話を聞いてくれー!」
マモルがだだっこのように叫ぶ。
ネネは少し笑った。
このいじりがいのある父親は、
きっと会社でも受けているのだろう。
「大丈夫だよ」
ネネはにっこり笑って見せた。
この親が大好きだと思った。