ネネは思う。
ハヤトは朝凪の町を知っているのかもしれないと。
バーバのことも知っているのかもしれないと。
でも、確たるものがあるわけでない。
夢の中を思い出すような作業なのかもしれない。
あんまり細かくは、きっと覚えていないだろう。
まぁ、ハヤトが本当に朝凪の町にいるかはわからない。
ネネは朝凪の町でハヤトにあったことはない。
偽者がいた気がするが、
多分ネネは、ハヤトにあっていない。
「覚えていないんじゃ仕方ないよね」
ネネはつぶやく。
ハヤトはうなずく。
ネネはコーヒーをすする。
名案が浮かぶわけでもないが、
ネネは熱めのコーヒーをすする。
ハヤトが朝凪の町に来ていたとしたら?
危険だということを伝えたい。
占い師を教祖とした集団があることを伝えたい。
教えによっては平気で人を殺す集団があること。
そして、どうしようか。
何でハヤトに、朝凪の町が危険だと教えなくちゃならないだろうか。
ネネはコーヒーを見つめる。
黒い液体にネネがうつる。
「友井」
不意にハヤトが声をかけてくる。
ネネは顔を上げる。
「なに?」
「友井はずっと友井か?」
「なにそれ」
「話すようになってからだから、ここ数日だけど」
「うん?」
「記憶の奥で友井が引っかかってる」
「夢で助けたとかいうんじゃなくて?」
「おぼろげだけど、友井がいる気がする」
「なんだろうね」
「わからない、けど、友井だと思うんだ」
「そうなんだ」
ハヤトが何か考える。
「俺はその友井に対して、何か悪いことをした気がする」
「悪いこと?」
「思い出せないけれど、罪悪感ばかり残ってるんだ」
ハヤトがうつむく。
罪悪感が本当なのかもしれない。
ネネはかける言葉を探す。
「大丈夫だよ」
根拠のない言葉。
ネネは、われながら軽い言葉だと思う。
「ハヤトが悪いことしても、あたしは元気だもん」
「そうなのか?」
「罪悪感があるなら、形になったらあたしが聞くよ」
「形に」
「そう、なんだかわからないけど、悪いとかじゃなくてさ」
「ふむ」
「俺はこんなことをしたから悪いと思ってるって、形にね」
「思い出せないんだよなぁ」
「そのうちでいいよ。そうでなければ忘れちゃえばいいよ」
「そうもいかない」
ハヤトはボソッと言う。
「友井に何か悪いことした気分で、友井を描きたくない」
「じゃあ早く思い出さないと」
「思い出せない」
「堂々巡りじゃないの」
「そうなんだよなぁ」
ハヤトはコーヒーをすする。
「朝凪の町とか言うところを覚えていれば、多分違うんだろうけどな」
「ハヤトはぼんやりしか思い出せないわけだ」
「何か大事なことの気がする」
「大事なのかなぁ」
ハヤトはため息をつく。
ネネもコーヒーをすする。
「少なくとも、ハヤトはバーバに反応したし」
「うん、聞いた気がする」
「似たようなイメージのところに行っているようなそんな感じかな」
「同じ夢を見ているような…か?」
「そんなとこかな」
ネネは曖昧に返す。
夢なら夢でそれでいい。
ハヤトが朝凪の町の記憶の断片があるのは不思議だが、
それを問い詰めても何が出るわけでもない。
「罪悪感の元がわかればなぁ」
ハヤトがつぶやく。
言われてもネネは、ハヤトの罪悪感の元なんてわからない。
「何か友井に悪いことをした気がするんだ」
「気がするだけでしょ」
「でも、思い出せないのが歯がゆい」
「いろいろ忘れてるんだね」
「多分そうなんだ」
ハヤトはぐいっとコーヒーを飲み干す。
「町のことも、友井に何かしたことも思い出せなくて、もやもやしてる」
「電話のことも思い出せない?」
「内容が思い出せない」
「ハヤトは何をしたんだろうね」
ネネもコーヒーを飲み干す。苦い。
心の中がもやもやする。
「勇者とかいう人の噂とか聞かない?」
「勇者」
ハヤトの動きがぴたっと止まった。
頭の中で何かをとらえたように。