駅の広場で膨れ上がる人ごみ。
警察も来ない。
許可を得ているのだろうか。
ネネとハヤトが見ている前で、着実に人が増えている。
「どうする?」
ハヤトが問いかける。
「パンフレットだけでも、もらうかな」
「気にはなるか」
「うん、何をうたい文句にしているかくらいは」
ネネは右の列に並ぶ。
ハヤトも後ろについた。
パンフレットの列はすぐに順番が回ってきて、
ネネはパンフレットをもらうと、
ハヤトとともに、人ごみからちょっと離れた。
「あなたの運命を見定めます」
ネネは一番大きな見出しを読んだ。
その下に、あなたの運命はあなただけのものとか、
運命は人によって違うもの、
あなただけの運命を見定めます、とある。
「あなたの進むべき未来を占います」
ありがちだなぁとネネは思う。
でも、その下、占いますの下に、
但し書きが赤で記されている。
「代価が必要です。何でもいいので用意をしてください」
あなたの思いのこもったものが必要です。
何でも構わないです。生きているものでもいいです。
そんな但し書きが記されている。
「どう思う?」
ハヤトが問いかける。
「代価があることで、余計に信じるのになってるのかも」
「なるほど」
「神様に何かおさめるとか、そういうのに近くなってるんじゃないかな」
「神様かぁ」
ハヤトは人ごみのほうを見る。
拡声器も人ごみもうるさい。
ネネは思い出す。
朝凪の町では教団は人を殺すまでして、機能していた。
殺されたあの人は、勇者に頼るしかないといっていた。
ネネは鋏師から鋏をもらった。
昔いた占い師は千の線になって、教主とリンクしている。
千の線を断ちに、ネネは鋏を持って、昭和島を目指さないといけない。
さっきちらりと見えたタミは、一瞬だったけれど、笑っていた。
この人ごみではもう見えないし、
無理やり近づくことも出来ないだろう。
タミが何か計画していて、その通りに物事が進んでいる。
ネネはそんな印象を持った。
朝凪の町の教主は、神になる。
そんなことを言っていた。
「本当の私を手に入れ、いずれは神になる」
ネネはぼそっとつぶやいた。
ちょっと覚えていた、朝凪の町の教主の宣言だ。
「友井?」
「なんとなく覚えていたことだよ」
「例の、朝凪の町か?」
「うん」
「聞き覚えがある気がする。空から響いた感じじゃなかったか?」
「そう。覚えてる?」
「感じがあったことだけ思い出せた。他はさっぱりだ」
「そうかぁ」
ネネはハヤトが朝凪の町のことを、
思い出すのは、ちょっと無理かなと思う。
「無理に思い出さなくていいよ」
「頭のどこかで覚えている気がするんだ」
「じゃあ、朝凪の町に行ってたのかな」
「思い出せない」
「それじゃ堂々巡りだ」
ネネはパンフレットをしげしげと見る。
佐川タミがよく当たる占いをはじめたのは、
ほんの数日前だ。
ネネが占ってもらったときは、おぼろげな占いでしかなかった。
タミは何か変わった。
パンフレットの中で、印刷のタミが微笑んでいる。
にっこり微笑んでいるのに、
ネネはなんだか恐ろしいものに感じた。
人ごみを散らす警察も来ない。
通報がないのだろうか。
ネネはパンフレットから顔を上げて、人ごみのほうを見る。
瞬間、ネネの目に化け物のようなものがうつった。
線で編まれた化け物のようなもの。
人ごみの中に、そんな大きな化け物がいた気がした。
「友井」
ハヤトがボソッとネネを呼ぶ。
「あ、うん、なに?」
「何か見えたのか?」
「あ、その」
ネネは再び人ごみを見た。
化け物は見えなくなっていた。
「その、なんでもないんだ」
「そうか、それならいいが」
ハヤトはだまる。
ネネは人ごみを見る。
何かの線で、この人ごみを取り込もうとする化け物がいる気がした。